グレミア公国の実情


「教えてください。今グレミア公国はどうなっているんですか?」

 私が真剣な眼差しでタスカさんを見上げると、彼も神妙な面持ちでゆっくりと頷いた。


「まず、グレミア公国の大公──カルム大公は、セイレを手に入れたがっている」

「っ……!!」

 セイレを──手に入れる──!?

「セイレはこの世界の神、鬼神おにがみ様の国であるが故に、精霊の加護が根強い国だ。どこの国も欲しがってるさ。今までは膨大な力を持つセイレの王族を恐れてできなかったが、もう10年以上王族が表舞台に姿を表していないことから、どの国も『すでに王家は滅びているのでは?』と疑問を持っていた」


 やっぱり……。

 そんな長い間出てこなかったら、流石にそうなるわよね。

 いくら執務は公爵家やフォース学園長がしてくれているとはいえ……。


「度重なるグレミア公国からのオーク流出にも一向に抗議の場に現れない王族に、大公は確信した。王族はいないのだとな。だからセイレを囲むベラム国、ロンド国と共に、セイレを一気に制圧しようとしているんだ」


 3つの国に囲まれているセイレ。

 その3国から一気に攻め込まれれば……。

  日本でプレイした【マメプリ】で、レオンティウス様が戦争でヒロインのクレアを庇って死ぬ際のスチルが頭をよぎる。

 あんな未来には絶対にさせない……!!


「タスカさんはどの立場なんですか?」

「俺は──俺たち騎士団は中立だ。無駄な争いはしたくねぇ。1番に駆り出されるのは俺たち騎士団だろうしな。皆、命は惜しいさ。魔術師団は、大公の野望に手を貸そうとしているようだが……」

 魔術師団……!!

 何度もセイレに現れ戦った人たち。

「どうも俺ら騎士団には報告なしに、勝手に動いているらしい。それも大公の命令でな。魔術師団は大公側──戦争推進派だ。俺たちは大公の息子であるラスタ公子側──戦争慎重派だ」


 は?

 大公は戦争推進派で──?

 息子は慎重派ぁぁぁ!?

「親子で対立してるってことですか!?」

 えぇ……何それ。

「あぁ。大公は息子の話なんて聞く耳を持っていないがな。力も大公のが上だ。いざというときは戦う他ない」

 独裁的な国なのね。

 戦いを繰り返しているグレミア公国にはそんな背景があったんだ……。


「騎士団としてはセイレに手を出したくはねぇが、その時が来れば仕方がねぇ」

「っ……そのことはわかりました。立場もありますし、責めるつもりはありません。……一つ聞いてもいいですか?」

「あぁ、なんなりと。お姫様」

 おどけるように言ってベッドへと座るタスカさん。

 なんかすごくリラックスしてるなこの人。

 戦う意思はないみたい。


「聖女を連れて行こうとしているのはなぜですか? あなた方は仕切りに聖女をそちらへ連れいていこうとしていた。それはあなたも同様でしょう? あの時『我らの国のため働いてもらうぞ』ってあなたは言っていた。それはどういうこと?」


 今はセイレを手に入れようとしているみたいだけど、そもそも五年前の目的は聖女誘拐だった。

 その理由を、私はまだ知らない。

 何か理由があるはず。


「……あぁ。聖女にも本当に申し訳ないことをした。確かに、俺は……俺たちは聖女を連れてくるという任務も負っている。……今グレミア公国では、浄化の力が足りなくなっているんだ」

「浄化の力?」

「あぁ。戦争に勝ち、技術を手に入れたグレミア公国は、工業も発達し栄えたが……土地は汚れ、そのせいで病が流行り始めた。まぁ自業自得なんだが、な。土地の浄化をしてもらうためにも、聖女の力が欲しいんだよ」


 なるほど……。

 確かに聖女の持つ浄化の力は強い。

 汚れた大地には1番の薬になる。

 でも、自分たちの責任を聖女に──クレアに負わせるなんて……!!


「クレアは渡しませんよ。大地の浄化なら自分たちでも継続して聖魔法で浄化し続ければできます。自分達のツケを、クレアに払わせるなんてもってのほかです」

 食いつくように睨みつけると、なぜかタスカさんは楽しげに笑った。

 なんなのこの人。嬉しそうに。


「ハハッ。俺もそう思う。はっきり言ってくれてありがとうな、姫さん」

 妙にさっぱりとした表情でそう言って、タスカさんは真剣な表情に戻ると前のめりになって再び口を開いた。


「とまぁ、ここらが今のうちの現状だが……姫さん、あんた──戦争回避のため、手を組む気、ないか?」


「!! ──詳しく、聞きましょう」

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