お土産はキスマーク!?


「!! ──詳しく、聞きましょう」


 私の答えにニヤリと笑ってベッドから立ち上がったタスカさんは、サイドテーブルの上の水をコップに注ぎ、ぐいっと飲み干してから、私を見た。

「俺はこれから、こちら側の情報をあんたに逐一報告する。その上で、どう行動するかその都度話し合うんだ。協力しあおうぜ。戦争回避のために」


 定期的な情報交換の場を設ける……か。

 タスカさんと情報を分け合えば、確かに大公たちの野望を阻止することも難しくはないかもしれない。

 いずれにしても、これに乗らない手はない。


「そうですね、お願いします」

「おいおい、即答していいのか?」

 目を丸くして声をあげるタスカさん。

「何か問題でも?」

「あ、いや、もっと怪しむもんだと……」


「確かに、少し怪しむべきかもしませんが……タスカさんは信じても大丈夫だと、私の野生の勘が言っているので。私、勘がはずれることってあまりないんです」

 何せ、当たってほしくない感ばかり当たってますからな。

 うん、もう少し外れてもいいんだよ、私の勘。

「それに、私の決めたことを騎士団もとやかく言うことはないでしょう。私はもうすぐ王位を継ぐので」

「!! それは──!! 王と王妃が隠居されるのか?」


 隠居、ねぇ。

 ある意味隠居、しているけれど。

 今王と王妃の死を彼に悟られるわけにはいかない。


「えぇ、まぁ、そんなところです。今は騎士団への周知ができたところで、これから国民への周知に移ります。近くグレミア公国にも話が届くでしょう。その前にタスカさん、あなたが私のことを報告してください。情報を聞いた大公は不審がるはずです。でもその後でセイレで戴冠式が行われることが知れ渡れば……。大公はあなたを信用するはず。そこから動きやすくなるでしょう」


 話を聞いている限り大公はタスカさんたち騎士団を信用してはいない。

 自分の意見に謙る人間ばかりを重用しているみたいだし、まずは本当の情報をどこよりも早く届けることで信用を得るのが1番だろう。


「なるほどな……。やっぱただの変態じゃねぇな、姫さんは」

 ほっとけ。

 私が変態化するのは先生にのみよ。


「よしわかった。それで行こう。んじゃ、これ渡しとくわ」

 私の前を通り過ぎた先──机の引き出しを開けて取り出したのは丸型のコンパクト。

 小粒のアメジストとシトリン、ガーネットがついて、一つの陣を描いていてとっても綺麗。


「これ、顔を映して相手を思えば繋がれる伝達魔法道具になってるんだ。コンパクトを持っている者同士しか繋がれんがな。もう一対は俺が持ってる。何かあればこれで情報を交換しようぜ。このコンパクトは俺が作った特製品だから、通信機だとは誰も思わんだろうからな」


 すごい……!!

 この人、先生の言った通り……できる……!!

 と言うより、こんな繊細なもの作れるタスカさんだし、魔法も相当使えるんだろうな……。

敵に回したくない人だわ。

「んじゃ、そう言うことでよろしくな」

 私の手にポンとコンパクトを置いてニヤッと笑う。

「はい、よろしくお願いします」

 落とさないように無限収納機能付きのマントの内ポケットへと収納する。


「んじゃ、送ってくわ。ちょっと待ってろ」

 タスカさんはクローゼットからジャケットを取り出して羽織ると、

「夜遅くにすまねぇな。冷えるから着とけ」と私にもジャケットを肩にかけてくれた。

 紳士か……!!

 イケオジ、意外と紳士か……!!

「ありがとうございます」


「にしても、1人で来るよう条件をつけた俺が言うのもなんだが、よくあんた1人で来ることを周りが許したな」

「隊長さんたちの中には反対の人ももちろんいましたよ? でも先生が、私を信じてくれて──私を待っていてくれるって送り出してくれたんです」

 先生のことを思い出して思わず顔が綻ぶ。

 早く帰って先生の顔が見たい。


「……面白くねぇな」

「へ? ──ひゃ!?」


 ドンッ──と音を立てて壁に押し付けられた背中。

 両手はタスカさんの大きな両手で拘束されたまま、同じく壁に押し付けられる。

 これが本当の壁ドンってやつだ……!!

 でも先生相手じゃなきゃ全然ときめかない。

 タスカさんも十分美丈夫だけど……。

 やっぱり先生じゃなきゃなぁ……。


「……俺にこうされて頬すら染めねぇとか……あんた女か?」

 失敬な!!

「だって相手がタスカさんですもん。先生ならともかく……」

 先生の壁ドンとか心臓破裂するコース……!!

 この間の拘束プレイも破裂寸前だったけど。

 最近の先生、やたら色気大放出させてるからなぁ……。

 そう言う時期なのかしら?


「……ちっ……。やっぱり面白くねぇ」

 タスカさんは低く呟くと、私の首元へと顔を寄せるとリボンをその薄い唇で挟み引き解いた。

「は!? 何してんですか!?」

「何って……ナニだよ」

 ナニじゃないわ!!

「なっ、なんでボタン開けてんですか!?」

 ちょ、なんでこっちにまた顔近づけて──って──っ!?

 開け放たれた首筋に、生暖かい感触とともにチクリとした痛みが走る。

「なにを……!?」

 反射的に体を離してから首筋を抑えるも、特に変化はないみたい。

「ん? ちと土産代わりにマーキングしてみた。さっきやったコンパクトで見てみな。良い色ついてんぞ」


 ……良い……色……?


 すぐにさっきもらったコンパクトを取り出し開いて確認すると──。

「んな!?」

 私の首筋にはほんのりと赤い小さな花が咲いていた。


 こ、これ……き、キスマーク……!?

 漫画でしか見たことのない、あの大人の戯れ……!!

 こ、こいつ……ナニしてくれちゃってんのー!?

「な……なな……」

「俺にマーキングされるなんて、あんたついてるな」

「ついてないわ!! 何してくれてんですか変態!!」

 こんな、ボタンを止めてリボン結んでもギリギリ見える目立つところに……!!


「はは、まぁまぁ、すぐ消えるから大丈夫だって」

「大丈夫じゃなぁぁぁいっ!!」

「いや〜、そんなはっきり拒否られると逆に燃えるな」

 やばいやつだ……。

 これはこのまま話を続けてるとダメだ。

 そう考えた私は深呼吸で心を落ち着けてからこの話題を終わらせることを選んだ。

「はぁ……もう。次はないですからね?」

「えぇぇー」

「えぇぇーじゃないです。帰って寝たいので、早く帰してください」

 私はポケットからハンカチを取り出して首筋をゴシゴシと拭く。

「ちっ……。まぁもう遅いしな。お手をどうぞ、お姫さん」

 私は目の前に差し出された手を取ると、タスカさんの部屋から2人揃って転移した──。

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