タスカの謝罪
──なんて元気よく出てきたは良いけど──。
セイレ王国とグレミア公国との国境、パントハイム領の隣の領にある小さな森。
暗い……!!
暗いよ……!!
流石に23時なんて夜遅くに森に入ることなんてないからとてつもなく怖い。
なんか時々変な音するし。
虫とか動物は平気なのよ。
でもね、お化けとかは本当に無理!!
こんな夜に1人でなんて……タスカさんの鬼畜!!
約束の小屋の前までくると、誰もいる気配はない。
「タスカさん? タースーカーさー……ひゃぁっ!?」
足 元に何かあったぁぁぁっ!!
私は足元の大きな石につまづくと、そもまま正面から倒れ込み──。
「っ!!」
「っ……と!! あっぶねぇな」
倒れ込むすんでのところでがっしりとした腕に抱き抱えられた私は、おかげさまで地面とごっつんこすることを回避できたようだ。
「お嬢さん、あんた、周りをよく見ろって言われねぇ?」
「……よく言われます。ありがとうございました、タスカさん」
うぅ……はずかしい。
本当なら、「待たせたわね」ってもっと最初はかっこよく決めるつもりが……。
なんて情けない再会なんだろうか。
「少し場所を移動するぞ」
「へ?」
言うや
シュン──!!
と一瞬で現れたのは薄暗いどこかの部屋。
「ここで話そうぜ」
「ここは?」
月明かりが照らす室内は、上品な装飾品で溢れていた。
中央奥には大きなベッドが存在感を発揮している。
誰かの家?
「あぁ、俺ん家。いらっしゃいませ、【グローリアスの戦乙女】殿」
お前の家かぁぁぁぁぁぁっ!!!!
「な、なんでタスカさんの家?」
「悪りぃな。あそこが目印としては良いと思ったんだけどよ、グレミアの魔術師やオークが頻繁に出るからな。邪魔されたくねぇし、あんたを危険には晒したくなかった」
「でも、タスカさん家ってことは……ここはグレミア公国ですよね? 私にとって余計に危険では?」
私の魔力がかぎつけられたらすぐに魔術師たちは現れるだろう。
あまりに近すぎるもの。
「安心しろ。うちは魔力探査の隠匿魔法をかけてるから、あんたの魔力を探知することは出来ねぇよ。できるとすれば、セイレの魔術師長くらいだろ」
「そう……ですか」
さすが隠匿魔法の得意なグレミア公国と言えば良いのか、そんな隠匿魔法をも見破ることができるレイヴンを尊敬すれば良いのか。
ただの万年発情犬じゃないのよね、意外と。
「話が終わったらあんたを無事返すつもりだ。まず、互いの状況について知っといたほうがいいな。──
「っ!?」
この人、私のことを知ってる……!?
「なぜ、私が
「なぜって……。この間の戦いで、目、赤くなってただろう? 鬼神様の目の色じゃねぇか。 鬼神様の子孫といえばセイレ王家。そう考えると、答えに行き着くには十分な材料だぜ。公表されている情報じゃ年齢は20歳らしいが……何らかの事情があって年齢詐称してんだろう?」
鋭い……。
そうか……私のあれを見たんだ。
待って、ということは……!!
「安心しな。あの場にいた騎士や魔術師には、その部分の記憶だけ消しといた。あいつらはただ【グローリアスの変態】にやられたって報告しただけだ」
よかった……。
ん? よかったんだろうか。
まぁ私が
「タスカさん、ありがとうございます」
「いいって。なんかうちの魔術師どもが色々やらかしてたみたいだしな」
申し訳なさそうにいいながら私に向き直ると、タスカさんは勢いよく頭を下げた。
「!! た、タスカさん!?」
「あれから色々調べた。あんたの言葉が気になってな。五年前。聖女やあんたを捕らえて、あんたを……その……拷問にかけた、って……」
「なんでそれを──?」
あの時の魔術師たちは全員先生たちが捕まえ、情報を吐かせるだけ吐かせたら忘却魔法で全てを忘れさせ、事を荒立てないためにも敢えて聖女誘拐犯としてでなく、侵入者としてグレミア公国へと引き渡したって聞いたから、何が起きたのか情報は行っていないはず。
「コルト村を調べた。五年前侵入者として引渡されたうちの捕虜たちは、あそこで聖女を誘拐する計画を立てていたからな。そこで魔力の残骸を見たんだ。幼い子供に……なんて卑劣な……。本当に、申し訳なかった!」
やっぱりタスカさんは関与していなかった?
なら魔術師団と騎士団で相違があるということ?
なぜ?
未だ頭を上げる気配のないタスカさんに「頭を上げてください」と声をかける。
「これはあなたのせいじゃない」
「だが──!!」
「知らなかったでは済まない」
「っ!!」
「それはそうだと思います。でも、過去を見て生きるより、これからのことを考えるほうがよっぽど建設的ではないですか?」
何をしてもクレアや私が受けた恐怖は変わらない。
変えられるのは過去じゃない。
未来だ。
だから私は、過去ではなく、今この時代にいるんだから。
「……あんた、強いな」
「だてに年取ってませんから」
「はっ。おもしれぇお姫様だ。あのシリル・クロスフォードが夢中になるのも頷ける」
なん……だと……!?
先生が……夢中!?
何それ詳しく聞きたい。
いや、でも悲しいかな、今はその時ではない。
私は自分の欲望をねじ伏せると、タスカさんを見上げて口を開いた。
「教えてください。今グレミア公国はどうなっているんですか?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます