先生の秘密は──


「クレアはどんなのが良いですか? 女性用は一応こんなタイプがありますけど……」

 私はスク水、ワンピースタイプ、ビキニ、パレオ付き、ハーフパンツ+Tシャツ、などいろんな種類の水着を転写していく。


 ぺたんこの胸に吊り目のクレア。

 私は彼女にスク水を推したい!!


「変な目で見てんじゃないわよ」

 鼻息荒く見ていた私に冷ややかな視線を投げつけて、クレアあ「私これかな」と指さしたのは、ハーフパンツとTシャツスタイルの水着だった。

 チッ……。


「まぁ、クレアにピッタリですわね」

 確かに普段着にパンツスタイルの多いクレアのイメージピッタリだ。

 個人的にはスク水クレアを推したいけれど。


「仕方ないです、じゃぁこれで。メルヴィはどれにしますか?」

「そうですわねぇ……私はあまり露出はできませんし、こちらですかしら。上の部分がもう少し露出少なめでしたら嬉しいのですけれど……」

 メルヴィが指さしたのはロングパレオ付きの水着。

 上はビキニだから確かに少し貴族的には露出多めかもしれない。


「なら、こんなのはどうでしょう?」

 私はパレオ水着の上半分の、ビキニブラの部分に、上からバタフライ袖のトップスを描く。

 見えるのが嫌ならば上から隠せば良いのだ!!


「まぁ素敵!! これでしたら大丈夫ですわ!! ありがとうございます、ヒメ」

 メルヴィが手を叩いて喜ぶ。

「メルヴェラによく似合いそうです。僕もこれを来たメルヴェラを見るのが楽しみです」

「まぁラウル様ったら」


 二人だけの世界に入り込むリア充二人組。

 何この可愛いカップル。

 良いな青春。羨ましいな。


「私はこんな感じでお願いします。色は桜色……ぁ、ローズクォーツのような色で」

 私は次のページに自分の水着を描いていく。

 ビキニタイプで、下がミニスカートになっているタイプの水着だ。

 一度着てみたかったのよね、スク水以外の水着。

 そういえば学校のプール以外で泳ぐなんて初めてだし、なんだかワクワクする。


「お、おいっ!! これはダメだ!! 破廉恥すぎる!!」

 声をあげたのは顔を茹で上がらせた、うるさい小姑……ごほん、義兄ジオルド君。


「えー!! なんでですかぁっ!?」

 破廉恥って……!!

 地球世界では普通ぞ!!


「こんなの着て変態が寄ってきたらどうするんだ!! アステルとかアステルとかアステルとか!!」

「なんで俺なんだよ!!」


 アステルの変態扱いが加速しつつある気がする。

 ようこそこちら側へ。

 なんなら【グローリアスの変態】の座を明け渡しても良いと私は思っている。


「大丈夫ですよ!! 私、今までナンパされたことも告白されたこともないですから!!」

 釣書は先生の方に届いたことがあるけれど、クロスフォード家っていうバック見てのことだろうし。

 モテない人生なう。


 私が言うと、皆一様にじとっとした目で私を見つめた。

「あんた……」

「自覚ないって恐ろしい……」

「そのうち取って食われそうだな」


 な、なんなんだいったい……。


「と、とにかく、私はこれで!! 皆も色決めましょ!! あ、お代は私が払いますんで」

 まだ小姑が何か言ってるようだけど気にしない。

「そんな、悪いですわ」

「心配かけたお詫びと、あと、以前出版した【自己免疫君と付き合いたい聖魔法ちゃん】が大ヒットして大儲けしまして。だから気にしないでください」


 神崎ヒメ、異世界で医療革命を起こすぜよ!!


「あんた、バカっぽいのに意外と賢いわよね……」

「てか、本のネーミングセンスの無さ……」

「何がヒットするかわからない。それこそ出版の世界ですものねぇ」


 なんだろう。

 褒められている気がしない。

 と言うよりむしろバカにされてる!?


「なら、遠慮なくいただくわ、ありがとう、ヒメ」

「いえいえです」

「そういえば、愛しの先生には送らなくていいの? 水着。あんたのことだから『先生の腹筋を堪能したい!!』とか言い出すかと思ったんだけど」

 クレアが思い出したように言って、メルヴィ達がうんうんと頷く。


 先生の……水着姿……!!

 私の脳内で、引き締まったボディを惜しげもなく晒す先生の姿が浮かび上がる。


「グハァッ!!」

「ちょ、鼻血!!」

「落ち着いてください、ヒメ」


 あまりの破壊力にたらりと暖かい液体が鼻から伝う。


 先生の裸体……(水着だけど)!!

 そんな……そんな……。

「そんなことしたら先生が痴女に襲われる!!!!」

「いやお前だよ!!」

「何で!?」


 くそ、アステルめ。

 まぁ、私は先生に水着を贈る気は元よりなかった。

 それはシルヴァ様が過去でこっそり教えてくれた、先生の秘密に関係する。


『シリルの秘密はね──実は泳げないってことなんだ。水属性の適性を持ってるのにね。昔屋敷の池で練習しようとして溺れてね、それ以来、泳ぐことを諦めたみたいだ』


 私の耳にシルヴァ様の低く落ち着いた声がよみがえる。


 そう、先生、まさかのカナヅチ!!


 でもこれは、他の誰かになんて教えてあげない。

 私とシルヴァ様と、先生だけの秘密にしておきたいから。


 だから私は、曖昧に笑って、ふざけ倒して誤魔化し続ける。

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