セレーネのこれから


「魔力量が散らばりすぎです!! もっとゆっくり、一点に集中させて!!」

「は、はい!!」


 ピカピカとした稲光を放ちながら、セレーネさんの目の前には雷の防御壁が繰り出され続けている。

 この状態を保って2分が経った。

 まぁまぁ、と言ったところか。

 でも──……。


 私は右手をセレーネさんの防御壁に向けると、水魔法で水の球をそれに向かって勢いよくぶつけた。


 バシュン──バシュン──バシュン!!

「きゃ!!」

 三発放っただけなのに、ボンッ!! という大きな爆発を起こし、防御壁はあっという間に消滅してしまった。


「な、何で……」

「強度が低いんです。より強い壁にしないと属性同士の衝突では負けてしまいます。今もほら、本来水に強い雷のはずが、私は中級の魔法を使っただけなのに水蒸気爆発を起こしちゃったでしょう?」


 防御壁の強さが足りないと言うことは、魔力自体が弱いか、魔力が集中していないと言うこと。

 セレーネさんの魔力は由緒正しい貴族らしく比較的多いので、おそらく後者だろう。

 一点に集中させないと、強い壁にはならない。

 まぁ、それだけ集中して魔力を流し続けるのも大変だからこそ難しいんだけど、強度がないと実戦では無意味に等しい。


「やり始めて数日でここまでできているのはすごいと思いますが、実戦となるとまだまだ甘いです。すぐに死んじゃうレベルです。これからは集中して送り込むことに重点を置いて修行しましょう」


「はぁっ……はぁっ、はい、ありがとうございました……!!」

 息を切らしながらセレーネさんが頭を下げる。


 ふぅ。

 何だろう、少し頭がぼーっとする。

 疲れてるのかな。


 朝露に濡れた訓練後の芝生の上に持ってきたシートを敷いて、その上にセレーネさんと並んで座る。

 真っ白いふわふわのタオルで汗を拭い、持っていた水筒の水を一気に口の中へ流し込むと、少しだけ身体の熱が紛れるようだ。


 それにしても、セレーネさんと二人並んで水を飲む日が来ようとは……。

 私が横目で隣でお上品に水筒からカップに移して水を飲むセレーネさんをみていると、彼女も私の視線に気づいて二人の視線が交わった。


「カンザキさん、顔色が悪いようですけれど……」

 心配そうに顔を覗き込むセレーネさん。

「大丈夫ですよ、少し疲れただけなので」


 過去に行く前から何かと忙しくしていたし、過去ではゆっくりできたものの、こっちに帰ってから早朝のセレーネさんの修行に夜の自分の修行、それに加えて王位継承の準備として、マナーや礼儀作法、ダンスを猛特訓することになった。


 マナーや礼儀作法は事情を知るジゼル先生が教えてくれていて、5年前から継続して教わっている分、スムーズに進んでいる。


 問題は──。


「ダンスよねぇ……」

「はい?」

「あ、いえ、こっちの話です」


 ダンスもおそらく事情を知るジゼル先生が教えてくれるんだろうけど、不安しかない。

 何せあのダンスの名手ジオルド君ですらさじを投げそうになるほどのダンス音痴だ。

 やり切れる気がしない。

 ……でもやらなきゃ。

 王がダンス下手とか、格好つかない。

 がんばる、私。


 私がふぅ、と息をつくのを、セレーネさんがじっと見てから口を開く。

「神崎さん、付き合っていただいている私が言うのも変ですが……無理はなさらないでくださいな」


 まさかあのセレーネさんに気遣われる日が来ようとは……!!

 お母さん嬉しい……!!


「セレーネさん、変わりましたね」

 思わず私が驚き口走ると、セレーネさんが眉を下げて微笑んだ。


「私、あのことがあって、一度ゆっくりと今までの自分について考えましたの。そうしたら、いかに自分が自分本意でわがままだったか、気づきましたわ。父の権力の下、そしておばあ様の名の下に生きて着て……でも、私自身は何でもなかった。その結果があれですわ。……神崎さん、本当に色々ごめんな──っ!!」


 セレネさんの真っ赤なルージュが惹かれた唇に、私の人差し指をそっと添える。


「謝罪は前に受けました。私はあなたのこれからを見ていきたい。だから、よろしくお願いしますね、セレーネさん」


「カンザキさん……えぇ、こちらこそ!!」


 そんな話をしている間にも生徒たちの声が聞こえてくる。

 私たちは二人笑い合って、シートを片付けると、朝食を食べるべく食堂へと足を揃えた。

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