ビジュアル崩壊は回避します
初めての、普段着を買うという体験にテンションを上げた私は、結局6着も買ってしまった。
黒ばかり選ぼうとする私に我慢ができなくなったクレアとメルヴィは、私に黒禁止を言い渡した。
なんとか一着だけ黒のワンピースを購入することを許してもらったけど……。
せ、先生とお揃いの色だから……とか、思ってないよ!? うん、ちょっとしか……。
そのあとはカフェに立ち寄って皆でランチを楽しんで、店から出たところで私は思い出したように足を止めた。
「すみません、やっぱりアリアさんの店に行っても良いですか? 水着の依頼をしておきたいので……」
アリアさんに水着を作ってもらおうと思ってたの忘れてた!!
「良いけど、水着って何だ?」
アステルが訝しげに首を傾げる。
やっぱりセイレっ子は知らないんだ、水着。
「海で泳ぐときに着る服ですよ。せっかくだし、海で泳ぎたいなーと思って」
私が言うと、メルヴィが「海で泳ぐ? その発想はありませんでしたわ……!!」と声をあげた。
「え……じゃぁ海で何するんですか?」
「普通はパラソルを立てて、その下で海を眺めながら読書や詩集を楽しみますわね。男性は泳いだりする方もいらっしゃいますけど……」
優雅……!!
レイヴンが言ってた通りだわ。
「俺ら平民は普通に男女ともに泳ぐけど、それ用の服なんか意識してなかったわ」
「そうね。透けない服があれば大丈夫な感じだったし」
とアステルとクレア。
こっちの平民組は泳ぐけど着衣泳!!
貴族と平民ってこんなに違うんだ。
「流石に着衣泳は危険なので、皆まとめてアリアさんに作ってもらっちゃいましょ」
そう言って私は、メルヴィとクレアを引っ張り、皆揃ってマダムアリアの仕立て屋さんへと向かった。
「いらっしゃいませ──あら、お嬢さんこんにちわ。クロスフォードの坊ちゃんも。今日はお友達とショッピングですか?」
店内に入ると、相変わらず指揮者のように指を振りながら魔法で生地に刺繍を施していた手を止めて、店主のアリアさんが目尻の皺を濃くして笑顔で迎えてくれた。
「アリアさん、こんにちは。はい!! 学園旅行の準備に」
「まぁ学園旅行!! 青春でございますわね!!」
「海に行くので、アリアさんに是非作っていただきたいものがありまして……」
私が言うと、アリアさんの目がキラリと光った。
「まぁっ!! それは楽しみ!! お嬢さんの思いつく服はどれも新鮮で素晴らしいものばかりですから、私もやりがいがありますわ!! さ、皆様どうぞこちらへ」
そう言ってるんるん揺れながら奥の部屋へと案内してくれるアリアさん。
さすが、服のことになるととても研究熱心で楽しそうな方だ。
以前私が浴衣を作ってもらった時も興味津々で、張り切って作ってくださった。
本当に服が好きなんだろうなぁ。
奥の応接室へと通され、皆揃ってフカフカのソファへと座る。
マダムアリアの応接室は、応接室であるにもかかわらず
それがまた魔法の世界なのだとあらためて感じられて私は大好きなんだけれども。
「それで一体どんなものをご所望で?」
アリアさんがワクワクと目を輝かせながらスケッチブックを開く。
「水の中で着る服です。ストレッチ素材の生地で、濡れても重くならないもので乾きが早くて──ちょっとお借りしますね」
私はそのスケッチブックをお借りして、転写魔法で自分の思い浮かべた水着を転写していった。
紺色の上下繋がった水着。
所詮スク水だ。
「なっ!? これ布面積少なすぎだろ!!」
「こ……これは、なかなか個性的……ですね」
マローとラウルが顔を赤くして声を上げる。
ジオルド君に至っては口をパクパクしながら顔を赤くして言葉をなくしている。
メルヴィも顔を両手で覆っているけれど、私は見た──指の間からしっかりと綺麗な琥珀色の瞳がのぞいているところを。
これでもビキニに比べたら布面積多い方なんだけど……。
一方クレアとアステルは興味深そうにスケッチブックを覗き込む。
「へぇ……確かにこれなら泳ぎやすそうね」
「だな。でもこれ、俺ら男が着たらまぁまぁビジュアル崩壊起こすんじゃね?」
でしょうね!!
女性用のスク水は男の子が着たらなかなかの破壊力だよ!!
「男性用はこっちですよ」
私は次のページをめくって男性用のサーフパンツタイプの水着を転写する。
「へぇ、良いじゃん。動きやすそうだし」
さっきまで顔を赤くしていたマローも興味を示して、「これなら……」とラウルも頷く。
「じゃぁ、男性陣はこんなタイプを4着お願いします。生地は……そうですねぇ……あぁこれ!! この生地ぴったりです!!」
生地サンプルをぱらぱらとめくって、全く水着と同じ質感の生地を発見すると、私はアリアさんにそれを提出した。
「あら、今まで使い道のなかった生地だわ!! こんな所で役に立つなんて、嬉しいですわね」
「ちょっと待て!! 4着って、僕もか!?」
まとまりかけた所でジオルド君が待ったをかける。
「当たり前です!! 一緒に泳ぎましょうね、お義兄ちゃんっ♡」
私がにっこりと笑って言うを、ジオルド君は頬を赤くして「ま、まぁ、お前がそう言うなら……」と満更でもなさそうに了承した。
ふん、ツンデレさんめ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます