たまには青春でも


 今日は皆大好き休日!!


 珍しく騎士団の要請もないので、クレア、メルヴィ、マロー、ラウル、ジオルド君にアステルと、いつものメンバーで旅行のための買い物をするため、王都セフィレラへと繰り出していた。


「とりあえず服だな」

「水辺に行くのでしたら、動きやすいワンピースのような服が良さそうですわね」


 Sクラスの女子は貴族ばかりだから、普段着はほとんどドレスのような長い丈のものを着ている人が多い。

 膝丈ワンピースばかりの私や、パンツ姿の多いクレアとは正反対のフォーマルな装い。

 きっとさっきメルヴィが言ったようなワンピースも、彼らの中では膝下ワンピースやマキシ丈ワンピースで足首が出ているだけとか、そういう類なんだろうと勝手に想像する。


「ならアリアさんのところに──」

「アホか。あそこは高級仕立て屋で、1から作る場所だ。あんなところで買うのは公爵家か王族、婚約披露パーティーとか、大切なドレスを注文するときぐらいだ」

 そう説明しながらマローがじっとりと私を見る。


 え、まじ?

 私は真偽を確かめるようにジオルド君に視線を移すと、ジオルド君は呆れたように息をついて「事実だ」と短く返した。


 し……知らなかった……。


「あんた、いつも服はマダムアリアの店で買ってんの!?」

 クレアが信じられないと言うような顔をして私を見るけれど、私はぶんぶんと首を横に振って答えた。

「ど、ドレスやオリジナルのオーダーが必要なものだけですよ!! て言うか私、そもそも普段着の服を買いに出るのなんて初めてですし」


 私が言うと、場が水を打ったようにしんと静まり返った。


「あんた……いつも服どうしてんの? まさかクロスフォード先生が選んで買ってきてたり……?」

 想像したくない、と言わんばかりに凄まじい顔で私に詰め寄るクレア。

「そ、そんなわけないじゃないですか!! 普段の服が季節ごとに勝手にクローゼットに入ってるんですよ!!」

 先生が選んでくれたりなんてしたら私多分その服しか着なくなる。


「は? 勝手に?」

「自動でクローゼットの中に服が補充されているんで……」


 そう。

 この5年、私は自分の服を買いに行ったことがない。

 私の部屋のクローゼットにいろんな色とデザインの服が季節ごとに自動で衣替えされて揃っているから。

 最初は赤や青や緑などの私が選ばないような色も揃っていたけれど、最近ではクローゼット君も私の好みがわかってきたのか、黒や白、桜色やパステルイエローなどの落ち着いた色をメインで揃えてくれるようになった。


「だから皆と選ぶの、とても楽しみです!!」

 そう言って私がふにゃりと笑うと、メルヴィが答えるようにふんわりと微笑み「ヒメ、楽しみましょうね」と私の右手を取った。

「そうね、あんたにぴったりの服を選んであげるわ」

 そう言ってクレアがメルヴィとは反対側の手を握る。


「仕方ねぇな!! 俺も手伝ってやるか!!」

 アステルが張り切って声を上げると、ジオルド君とマロー、それにラウルがギョッとした顔でアステルを見た。


「おいアステル、知ってるか?」

「なんだよ」

 マローがアステルの肩に腕を回しニヤニヤしながら口を開いた。


「女性に男性が服を選んで送るのって、後でその服を脱がせたいって意味なんだとよ」

「は!?」

 マローの言葉に呆れたようにうんうん、と頷くジオルド君とラウル。


「アステルの変態!!」

 私はすかさず両手で身体を隠すように腕を抱える。

「いや、違っ!! そう言うつもりじゃ……ってか、お前にだけは変態って言われたくねーよ!!」

 アステルの声が街に響き渡る。


 デジャビュ!!

 ていうか、これじゃ私が変態だって町中に宣伝してるみたいじゃないか!!

 解せぬ。


 そんな馬鹿話をしながら、私は友人たちとのショッピングを大いに満喫するのだった。

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