私と彼の1週間ー5日目ーピクニックとはなんぞー
ピクニックといえば何を思い浮かべるだろう。
青い空に白い雲?
それとも大草原に小さな木陰?
私はどうやら全てのピクニックのイメージを覆さねばならぬ日が来たようだ。
「どうしたーヒメー?」
「置いてくわよー?」
先を行くレイヴンとレオンティウス様が、立ち止まった私に気づき振り返ると声をかける。
「あの……ピクニックって言ってましたよね?」
「そうね」
私の少しだけ前を歩いていたエリーゼが振り返り、なんでもないふうに小首を傾げキョトンとして答える。
可愛い。
文句なしに可愛いよエリーゼ。
でもそうじゃない。
今はそうじゃないんだ。
だって……。
「ここ……どう見ても──」
「──ダンジョンですよね……?」
目の前に広がるのは緑あふれる大草原、ではなく、ゴツゴツとした岩のみ。
青い空や白い雲、
──いや涼しいけど!!
確かに涼を求めるには良いけれど!!
思ってたんと違う!!
「そっか、ヒメは初めてか。なら驚くのも無理はないな」
カラッと笑いながらレイヴンが言う。
「そうね。初めてだと戸惑うのも無理はないわね」
レオンティウス様も眉を下げ苦笑いを浮かべながらそう言うと、私のいる後方まで歩みを戻すと、私の肩に自身の片腕を回し、もう片方の手で私の右手を取って続けた。
「大丈夫、安心して。初めては私が優しく手取り足取り教えてあげるから。色々と……ね」
色気ぇぇぇぇぇぇぇ!!
何の!?
何の初めてですかレオンティウス様ァァァァァ!!
「はぁ……レオンティウス」
私の隣で鋭い瞳を
ずっと戸惑いながらゆっくりと進んでいた私の歩幅に合わせて歩いていてくれた彼は、おそらく面倒見の良さゆえなのだろうけれど、本当に紳士だと思う。
「はいはい。全く、あんたのないとは口うるさいわねぇ」
悪態をつきながら私から手を離し両手をあげるレオンティウス様に苦笑いを返し、私は再び足を進める。
「大丈夫か? ダンジョンなんて驚いただろう?」
こそっと私の隣で歩きながら気を遣ってくれるシリル君。
「大丈夫ですよ。私、ダンジョンって初めてで少し驚きましたけど……こんなに暗いものなんですね」
エリーゼが聖魔法で作り出している、ふわふわと浮かぶ光の玉がなければ、きっと真っ暗で何も見られなかっただろう。
「もうすぐだ」
「もうすぐ?」
「あぁ。あそこには──」
シリル君が言いかけたその時──。
「ガルウゥゥゥゥ……!!」
低くおどろおどろしい獣のような声と共に、岩陰から次から次へと何かが飛び出した。
「闇堕ち
グリム!?
本では見たことがあるけれど、実物を見るのは初めてだ。
大人の男性よりも大きいであろう巨体にボサボサの黒い毛並み。
鋭い牙が歯茎まで剥き出しになり、黄色の瞳はギラギラとこれでもかというほどに歪められている。
大型ワンコ!!
それが5匹も……!!
それらは私たちの行手を阻むかのようにしてこちらを見ている。
私の知っている本で見たグリムは、確か狼ほどの大きさだったはず。
これが瘴気の影響ってこと?
「チッ……あと少しって時に」
舌打ちしながらレオンティウス様が腰に携えていた剣を引き抜く。
「ヒメ、エリーゼ!! お前らは下がってろ!!」
レイヴンは言いながらバスケットをその場に置くと、右手のひらをグリムたちへと向け、勢いよく土魔法を放つ。
バシュンッバシュンッバシュンッバシュンッ──!!
数発にわたり放たれた岩の嵐は、見事グリムたちへと命中した。
「はぁっ!!」
そこへレオンティウス様が切り込み、シリル君が氷魔法で大きな氷の
「グオォォォォォォ!!」
野太い声が轟くものの、向けられた鋭い視線と牙はそのままに、奴らは一斉に私たちに向かって駆けた──!!
「っ!! 全然効いてない!? くっ、アレン!! 大丈夫!?」
私たちのすぐ前、彼らの後方で土魔法を放つアレンにレオンティウス様が振り返る。
アレンが魔法を使うところ初めて見た。
「僕は大丈夫だよ!! それより、魔法が全く効いていないみたいだ!! ヒメとエリーゼだけでも安全な場所へ避難させたほうがいい!!」
言いながら攻撃の手を休めることはない。
気を抜いたら私たちの方にまで襲いかかってきそうな勢いだ。
シリル君の氷魔法も、レイヴンの基礎属性全てを用いた魔法も、レオンティウス様の剣技も効いている様子はない。
せいぜい足止めをしているのみ、と言ったところか。
魔法だけ、剣だけではきっと皮が厚くて致命的なところまでは通らないんだ。
となれば魔法剣。
シリル君はまだ魔力のムラが多いから魔法剣を使っても長くは保たない。
5匹もいるから、おそらく魔法剣を使うタイミングを図っているんだと思う。
一気に討伐できればいいけれど、まだ残っているうちに力尽きては元も子もないから。
エリーゼは私たちに聖魔法で防御壁を作ってくれているし……。
となれば動けるのは私だけ。
でも私は今剣を持ってないし、一体どうしたら──。
攻撃の手はどちらも止めることもなく、焦りばかりが募る。
落ち着け、こういう時こそ周りをよく見なければ……。
私は一度大きく深呼吸をしてから、再び考えを巡らせた。
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