私と彼の1週間ー5日目ー尊き細マッチョー



 シルヴァ様と別れた私は、シリル君との待ち合わせ場所である食堂前の中庭で、彼の銀色を探した。

 夏の暑さがまだまだ続いている中庭には人もまばらで、皆涼を求めて室内で食事をとっているようだ。


 そんな中、影の方で通り風になびく綺麗な銀髪が視界に映り込んだ。

 さっきまで同じ色を持つ人物と一緒にいたというのに、それがなんだか懐かしく恋しく感じられて、私は一目散いちもくさんにその銀色めがけて走った。


「!! ヒメ、何やって……うぁっ!?」


 私を見つけるなり不機嫌そうに文句を口にするシリル君の言葉が、彼の胸にダイブする私によって途中で遮られた。

 よろけながらもしっかりと足を踏ん張って受け止めてくれるシリル君。

 細いけど体幹がしっかり鍛えられてるのね。


「ちょっ……何を……!! っ……何か、あったのか?」

 無言のままギュッと抱きつく私の雰囲気に何かを感じ取ったのか、いつものように引き剥がそうとせずに私の両肩に手を当て、理由を聞いてくれるシリル君。


 あぁ……尊い。

 本当に優しい人だ。

 お母様やジオルド君のことがあって、まだ何ヶ月も経っているわけではないのに。

 なんだかんだと私の面倒を見てくれるシリル君。


「ヒメ……?」

 優しく、伺うような彼の心地の良い低音が耳に響く。


 そろそろ顔ぐらいあげなきゃ心配させちゃう。

 そう思った私は、ゆっくりと顔だけ起こして、彼のアイスブルーを覗き込んだ。


「シリル君を補給したくなったんです」


「…………は?」


「シリル君……良い筋肉です……!! きっとたくさん鍛え上げたんでしょうね。それでいてゴツゴツしていない引き締まった胸!! 腕!! 首!! なんなんですかこの細マッチョ!! 襲ってほしいんですかぁぁぁぁ!?」


 ぁ、まずった。

 ついもう一人の私が顔を出して暴走してしまった。

 でもこの状態をチャンスとばかりに私は彼の胸筋に頬をよせスリスリと擦り付ける。


「〜〜〜〜っ!! すりすりするなこの変態娘!!」

 そんな私に口元を引き攣らせながら、ベリっと自身から引き剥がすシリル君。


「うぅ、あともう少し補給したかった〜!!」

 私の筋肉がぁぁぁ……!!


「はぁ……君は一体……。まぁ良い。それより、午後から授業が休みになったんだ。どうする? 食べたら図書室にでも行くか?」


 シリル君が休み!!

 しかも図書室デートのお誘い!?

 いきますとも!!

 シリル君からの申し出を断るなんて選択肢、私は持ち合わせておらんわ!!


 私がイエスの返事をしようと口を開きかけたその時。


「シリルー!! ヒメー!!」

 私たちの名前を呼ぶ声が微かに聞こえ、遠くから駆けてくるワンコ──レイヴンの姿。


 彼の後ろからは、レオンティウス様、エリーゼ、アレンが何故かバスケットを持ってついてきている。


 出た。

 賑やか幼馴染ーズ。


「レイヴン、どうしたんですか?」

「お前ら!! 行くぞ!!」

「「は?」」

 私とシリル君の声が重なった。

 言葉のキャッチボールがうまくいかないんだけど。


「良いから良いから!! 行くぞ!!」

 何が良いのかわからないけれどそう言いながら私の手を取り、幼馴染たちの方へと引っ張っていくレイヴン。


「ちょっ!! レイヴン!!」


「レイヴン離せ。彼女も一応女性だ。そんな無理に引っ張るな」

「あ、わりぃ」

 シリル君が抗議してくれて手はすぐに解放されたものの、一応という言葉がなんだか解せぬ。


「昼から休みだろ? だからエリーゼがさ、皆でヒメの歓迎会がてらピクニックしようって言い出してさ」

 その言葉に私がこちらへ歩いてくるエリーゼの方へと視線を移すと、彼女はその視線に気づき、穏やかな笑顔で手を振ってきた。


「さっきクロスフォード騎士団長にばったり会ってさ、騎士団の転移陣の使用許可をもらったから、すぐ行けるぜ」

 さっき、ということは私と別れてすぐか。


「会ったのか、父上に」

「あぁ。なんかよくわからんが、頭撫でられたぞ!!」

 わぁ……レイヴンの尻尾が揺れてみえる。

 幻覚かな。

 完全なる犬だわ。


「父上まで関わっているのなら仕方が無いか……。ヒメ、良いか?」

 律儀に私に確認をとってくれる。

「はい、大丈夫ですよ!! 図書館デートはまた今度しましょうね」

 私がそう言うと「デートじゃない……」と小さく訂正するシリル君。


「で、どこへ行くんですか? ピクニックって言ってましたけど、まだまだ外は暑いですよ?」

 できれば涼しい場所でのんびりひっそり食べていたい。


「大丈夫!! そこはついてからのお楽しみよ」

 私たちのそばまでやってきたエリーゼがにっこりと笑ってそう言った。


「悪いようにはしないから、安心して」

 エリーゼに続いてレオンティウス様も、色気たっぷりの笑顔を振り撒いて言いながら私の頭をそっと撫でる。

 彼らの一歩後ろでニコニコと穏やかにやりとりを見ているのはアレンだ。


「んじゃ、皆揃ったし、涼を求めてしゅっぱーつ!!」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る