私と彼の1週間ー4日目ー貴方と私の初めてー
「わぁっ!! 右が強いですシリル君!! ちょっと落としてくださいっ」
「わ、わかった」
食事後の談笑の場から半ば強引に脱出し、夜の聖域で訓練を始めた私たち。
昨日と同じようにシリル君の両手を握って、力のバランスを見る。
が──。
何で昨日よりバランスが取れてないの!?
昨日はアドバイスをすぐに飲み込んで、メキメキと上達していたのに。さっきから魔力を流し始めるとすぐに片方に偏ってしまい、魔力の波も荒れている。
暴走気味な魔力を両手に流され続けたからか、ピリピリして少しだけ痛い。
でも愛する先生の──シリル君のため!!
私、頑張るからね!!
だけどごめん。
ちょっと休憩させてぇぇぇ!!
「す、少し休憩しましょうか」
そう言ってゆっくりと彼の黒い両手を下ろす。
「……わかった」
しゅんと肩を落とし魔力を引っ込めてから、シリル君はいつもの木の根元へと腰を下ろした。
おぉ、シリル君がしょげてる。
可愛い……!!
触っても良いですか!?
撫でても良いですか頭ぁぁぁ!!
そんないつものもう一人の私をぐっと奥底に押し込めてから、私は汗を滲ませる彼の額に、用意していた白いタオルをふわりと押し当てた。
「っ!!」
びくりと体を揺らし私を見るシリル君。
「あ……ありがとう」
小さく俯きながら押し当てられたタオルを受け取り、自分で汗を拭っていくシリル君。
そしてそれは額から白い首筋へ──。
うあぁぁぁぁ!!
私の理性が試されている……!!
どうしよう。
一度目に入ってしまったらそこにしか目がいかなくなるんだけど!!
なんて色気のある首筋なの!?
「また変なこと考えてるな。変態」
汗を拭いながらじろりと横目で睨みつけるシリル君もまたイイ……!!
「な、なんでもないですよ!! それよりシリル君、どうかされましたか? 昨日より集中できてないみたいですけど……まさか熱でも!?」
ぐいっと身体を寄せ、シリル君の額に右手を当て、もう片方の手を自分の額に当ててみるけれど……うん、熱はないみたい。
むしろ汗が乾いて夜の風に触れたことで冷たいくらいだ。
「っ!! べ、別になんでもない!!」
一気に顔を赤くして、少し私から距離を取るシリル君。
ん? これ、もしかして照れてる?
「シリル君、照れてますか?」
「照れてない」
むすっとしてそっぽをむくシリル君。
何これ可愛い。
お姉さんまた暴走しちゃいそうよ!?
「
「
「美形でモテるのに、擦れてないっていうか……」
レイヴンやレオンティウス様とは大違い。
と心の中でつぶやく。
「悪いか? 私は君のように異性慣れしているわけでもないし、あの日君に奪われた、く、口付けも君が初めてだ。慌てる私を見てさぞ小気味よかっただろうな」
声は落ち着いているものの、勢いに任せ一息に私にぶつけてきた言葉に驚いて、私は呆然と彼の横顔を見る。
ん? もしかして私、男慣れしてると思われてる!?
それは誤解だ!!
由々しき事態!!
私が慣れてるのは騎士団の男くさい連中の熱血訓練と魔物退治だけよ!!
1番誤解されたくない人に誤解されるなんて……!!
「あの……えっと、私も、初めてでした……よ?」
うぁ、何これ恥ずかしい。
自分で初キスだとカミングアウトするこの羞恥プレイよ……!!
もう本当、勘弁して。
「は?」
眉を顰めて聞き返すシリル君に、羞恥心が限界に達した私は
「だーかーら!! 私もファーストキスでしたって!!」
と大声で叫んでしまった。
「ぁ……」
「え……」
うぅ……恥ずかしい。
穴があったら入りたいってまさにこういうことを言うんだと思う。
「えっ……と……君もその……初めて……だった、のか?」
戸惑っているように目を大きくして途切れ途切れにたずねるシリル君。
あぅ……この羞恥プレイいつまで続くの……?
「こんな嘘つきませんよぉ……!!」
彼の視線に耐えきれなくなった私は両手で顔を覆う。
あぁもうだめだ。
耐えられない。
恥ずか死ぬ。
「そう……そうなのか……。済まない。君の大事な初めてを……」
言い方!!
語弊!!
「い、いえ。私が勝手に落ちてきて、勝手にぶつかってキスしちゃった、いわば事故チューですし、シリル君のせいじゃないです」
むしろ被害者はシリル君だ。
「責任を……!!まずは親に挨拶に行って──」
「いやいやいや!! 何婚約の流れになってるんですか!? 責任なんていいですよ!! 奪われたシリル君には申し訳ないですけど、私にとっては嬉しいハプニングだったので!!」
ぁ、本音が……。
ていうか事故チューだけで責任取って婚約しようとするとか天然か。
────天然だ。
「とにかく私は大丈夫ですから!! 私が言うのもなんですが、セカンドキスは大事に取っておいてくださいね、シリル君の思い人のために死守ですよ!!」
じゃなきゃ後に思い合うであろうエリーゼが不憫だ。
「あ……あぁ、わかった」
無表情のまま頷くシリル君の耳は頬の熱を一気に吸収して赤く染められている。
本当に、可愛い人だ。
そして私はふと煌々と輝く月を見上げ、不器用な彼を思い出す。
先生も現代で見ているだろうか。
この綺麗な夏の夜空を。
その時私を、少しでも思い出してくれていたなら──。
私は隣のシリル君の視線を頬に感じながらも、先生へ想いを馳せずにはいられなかった。
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