私と彼の1週間ー4日目ー思春期はムラムラしますー
「ふぅ〜ん、1週間限りねぇ。って、あと三日しかねぇじゃん!!」
私の滞在期間を聞くや否や、レイヴンが声を上げて立ち上がった。
大袈裟だな、この大型犬。
「でもヒメって、私たちと同じ年齢なのよね? 学園には通わないの?」
エリーゼがチュウチュウと果物ジュースをストローで飲みながら尋ねる。
はっ!! そうだ!!
ここ、15歳から魔法適正の強い人間が通う学園だった!!
魔力がないから……は、もうシリル君の前でバンバン使っちゃってるから嘘だってすぐバレちゃうだろうし……。
どうしよう!?
何かいい考えは……?
考えた末に私は「あ、えっと、やっぱりサバ読んでました!! 実は私20歳なんです!!」と本当のことを暴露するという考えに至った。
が────。
「嘘だな」
「嘘ね」
「ヒメったら面白い嘘ね」
「はは、わかりやすい嘘だったね」
「はぁ……」
瞬殺!!
シリル君なんてもはやただのため息しか出してない!!
真実であっても真実と思われないこの不思議……!!
解せぬ。
「君みたいな20歳がいたら、その人は少しおかしな大人なんだろうと思うぞ」
淡々と私の心を抉りにかかるシリル君。
ここにいるんだよ、そんな二十歳が……!!
なんなら生きている総計で言えば25年分生きてるから……!!
「まぁ、事情は色々だし、その辺にしといてあげましょ、皆」
レオンティウス様の気遣いが身に染みる。
さすが乙女の味方系オネエ。
「そうね。たとえ帰ったとしてもまた会えるわよね、ヒメ」
「え、えぇ……」
私はエリーゼの問いかけに曖昧に答える。
そう、また会える。
5年後、私は何も知らないままの状態で幼女になってこの世界に還ってくるのだから。
だから……また、会えるわ。
──エリーゼ以外は。
このままいくとエリーゼはシナリオ通りに亡くなってしまう。
少し話しただけでもわかるエリーゼの魅力。
優しいし美人だし、明るいし……皆の中心にいるお姉さんのような雰囲気のある彼女が、1年後には死んでしまう。
この時代で生きていても、1年後には亡くなってしまう人たち。
彼女たちに会えるのは、あと三日だけなんだ。
私が心の中で思い耽っていると
「ヒメ? 大丈夫か?」
シリル君が心配そうに私を覗き込む。
「!! だ、大丈夫!! あと三日しかないのが寂しくなっただけです。うん、エリーゼのいう通り、また会えますもんね」
「……。……皆、私はヒメと約束があるから、私たちは先に失礼する」
無理矢理に笑顔を作ると、突然そう言いながら席を立ったシリル君。
時計の針を見ると、もう8時を回っていた。
ここにきたのは6時半過ぎだったから、2時間近く話し込んでいたのね。
私たちはこれからシリル君の魔法剣の魔力制御の訓練だ。
こちらの世界でも二人で訓練できるのはなんだか嬉しい。
「二人でこんな時間にか!? ちょっ、お前ら見かけによらず大胆だな!!」
「まぁまぁ、良いじゃないの。シリルだって男の子だもの。こんな可愛い女の子がそばにいたらムラムラもするわよ」
「何の話だ!?」
レイヴンとレオンティウス様の盛大に下世話な勘違いに、シリル君が耳まで真っ赤にして声を上げた。
あぁシリル君。
反応してはダメなところに反応してしまうあたり、可愛すぎる……!!
でもレオンティウス様。
逆です。
ムラムラするのは私の方なので──!!
「っ!! 悪寒が……!! と、とにかくいくぞ、ヒメ」
ぶるっりと震えて自身の腕を抱き込みながら、シリル君が私に向かって急かすように言った。
「はい。では皆さん、またお会いしましょう」
「え、えぇ……またね」
一瞬だけ見えたエリーゼの少し陰りを帯びた表情が気になりながらも、私はシリル君と一緒にすっかり騒がしさの落ち着いた食堂を後にしたのだった。
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