私と彼の1週間ー4日目ー15歳の歩く18禁ー



  歩きながら少しずつ冷静になってきた頭で考える。


 ちょっと感じ悪かったかな。

 いや、でもひどくない!?

 二人用のテーブルに座っておいて、私が入れるわけないでしょ!?

 あんな人が多い中で椅子だって空いてないし。

 私の席がないんだから一緒に食べるなんて無理じゃんよ。


 我ながら大人気ないとは思う。

 短絡的で感情的。

 でも仕方ない。

 だって私、今は子どもだもん!!



 ぷりぷりしながら廊下を歩いていると、


 ドン──ッ!!


「きゃっ!!」

「うぉっ!?」



 曲がり角を曲がってすぐ何かにぶつかって、それと同時にその何かに抱きとめられた。


「ごめんなさいっ!! 前、見てなくて」

 言いながらかを上げると、至近距離で琥珀色の瞳と視線が交わった。


 ……ぁ。

 この色──。


「俺よりお前は? 大丈夫だったか?」

 私の方を気遣ってくれる男性の声は思い切り聞き覚えがある。


 この声。

 この瞳。

 この髪。


 レイヴンだ〜〜〜〜!!

 少しだけ顔つきが幼いけれど、この外見、この距離の近さ、紛れもなくレイヴンだ!!


「ぁ、はい!! 本当、ごめんなさい!!」


 私はぐっと彼の胸板を押し返すも、びくともせずに体は拘束状態を保っている。


「あ、あの?」

「見かけない顔だな。こんな可愛い子、この学園にいたっけ?」


 私の顔を覗き込みながらじっくり観察するレイヴン。

 チャラい!!

 そして無駄に近い!!


「俺はレイヴン・シード。お前は?」

「えっと……ヒメ、です」


 至近距離に耐えられなくなった私は彼から少し顔を逸らしながら答える。

 ワイルドイケメンの破壊力が恐ろしい。


「ヒメか。可愛い名前だな。どうだ? 俺と部屋でゆっくり食事でも」


 いや、なんの食事!?

 身の危険しか感じんわ!!

 断ろうと口を開きかけたその時。


「あら、レイヴン。こんな廊下で公然と女の子とイチャイチャするなんて、珍しいじゃない」


 このどこか色気を帯びた声……。

 まさか……。


 レイヴンの腕の中からチラリとそちらを見てみると──。


「ん?レオンじゃねぇか」


 やっぱりレオンティウス様キターーーー!!


 髪は今より少しだけ短めだけど、この溢れんばかりの色気は間違いない。


「その子は? 見ない顔ね。黒髪なんて珍しいじゃない」


 ドキッ……。


 そういえばレオンティウス様とも喧嘩したままだった。

 少し気まずい。


「知らん。さっきぶつかって運命の出会いを果たした」

「うん、初対面ってことね。見境なく襲うのやめなさい」


 ベシンッとレイヴンの側頭部をレオンティウス様が叩くと、レイヴンは「チッ……邪魔が入った」と言いながらしぶしぶ私を解放した。。


 やっと解放された……!!

 さすがレイヴン、万年発情期男……!!

 レオンティウス様が来てくれなかったらどうなっていたことか……。



「ぁ、あの、ありがとうございました」

 私は気まずいながらもレオンティウス様にお礼の言葉を述べると、正面から私を捉えた彼の目が大きく見開かれた。


 あれか。

 姫君プリンシア思い出してるのか。

 いろいろと知ってしまった私にはわかるぞ。


「あんた……可愛いじゃない!! 何ちょっとこの綺麗な目!! もうその目だけで癒されるわぁ〜!!」


 あ、あれ。

 思ってたんと違う。

 姫君プリンシアのこと思い出してセンチメンタルレオンティウス様になってるんじゃないのか。


 そしてぐいっと手を引かれると、今度はテンション高めのオネエに抱きすくめられることに……。

 ふわりと香るレオンティウス様の花のような華やかな香りは、10年後のものと全く変わりない。


「ねぇねぇ。レイヴンなんかより、私のところに来ない?」

「ひぁっ!?」

 色気たっぷりに目を細め、口を私の耳元へと近づけ囁く。

 耐性のない私には刺激が強すぎる!!


「あ!! おい、ずりぃぞ!! こいつは俺が先に運命の出会いを果たしたんだぞ!?」

 いやいや運命の出会いじゃないから。

 ただぶつかっただけだから。


「え〜? でもレイヴンと二人っきりなのはイヤそうだったわよぉ?」

 勝ち誇ったようにレイヴンに笑い返すレオンティウス様と、悔しそうに顔を歪める自称運命の出会いを果たしたレイヴン。



 この歩く18禁コンビ……!!

 15歳なのにも関わらず存在がもう18禁で出来がってる!!


「あ、あの!! お二人とも、私……!!」

 反抗しようと声をあげたその時──。



「ヒメ!!」


 私の名を呼ぶ、張り上げたような大きな声。


「はぁっ……はぁっ……!!」

 肩で息をしながら、レオンティウス様の腕の中の私を見つめるシリル君の姿──。


 彼と視線が交わった瞬間。

 シリル君はズカズカと進むと私の手を取り、レオンティウス様から私を引き剥がした。

 そして代わりに、自身の腕の中へと私を閉じ込めたのだ。


 ドクン──……。

 ドクン────……。


 今の私は、シリル君の胸にピッタリとくっついて抱きしめられている状態だ。

 彼の呼吸、心音、喉鳴り、全てが間近に聞こえ、安心を覚えるとともに全身に熱がこもる。


「いくぞ」

 彼は小さくつぶやいてから私の手を取り直すと、くるりと二人に背を向け、一歩を踏み出した。


「あ、おい、待てよシリル!!」


「悪いな。これは私の連れなんだ、他を当たれ」

 レイヴンの方を見ることなくそう言うと、シリル君は私の手を引いてその場を離れるのだった。

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