私と彼の1週間ー4日目ー私の席ー


 ゴーン──……。


 鐘の音が大きく鳴り響いて、私はシリル君との約束を思い出す。



「フォース学園長!! 私、シリル君と昼食の約束があるので、失礼しますね!!」

 勢いよくソファから立ち上がると皮の生地に私のお尻の型がくっきりとついて、かなり長い間座っていたのだと思い知る。


 積もる話がありすぎたから仕方ない。

 まぁほとんど私が一人で先生について素晴らしさを布教していたのを、フォース学園長が「ふんふん」と微笑ましそうに見守ってくれている、という状況だったのだけれど。



「ん。またいつでもおいで」

 そう言って穏やかな深緑の瞳で私を見ながら手を振る学園長に、私もまた手をふり返してから学園長室を後にした。


 パタパタと急ぎ足で食堂へ向かうと、いつもの端っこの二人席に、目立つ銀髪がチラリと見えた。

 待たせてしまったかな、と思いながら、私は銀色の頭がひょっこりとのぞく席へと足を進めた。


 流石に夏休みが明けたことで生徒でいっぱいになったお昼時の食堂。

 彼らにとっては見知らぬ女学生である私にたくさんの視線がまとわりつく。

 そんな視線と人の波をすり抜けながら、私は銀の頭に向かって声をあげる。


「シリルくーん!!」

 私の声に反応して銀の頭が少しだけ揺れた。


「すみません!! 学園長とお話ししてい……て……」

 そこまで言って、私の言葉が途切れた。


 だって彼の向かいの席には……、私の定位置には、エリーゼが自然に座って当たり前のように食事をとっていたのだから。



「あ、ヒメ。ごめんなさいね? お腹が空きすぎて先に食べはじめちゃった」

 フォークでサラダをつつきながら、エリーゼが眉を下げて言う。


 えっと……。

 なんでエリーゼが?


 私が今の状況に戸惑っていると「すまない、ついてきてしまった」とシリル君が短く説明した。


 そっかぁ。

 ついてきちゃったのかぁ。

 そりゃ仕方ないわ。


 ……って……なるかぁ〜〜〜〜!!


 せっかく二人で食事できると思ってたのに。

 せっかくシリル君から誘ってくれたのに。

 なんで連れてきたの!?


 ……なんて、言えるはずもなく。


 情けなくも私は無理矢理に笑顔を作り「そ、そうですか」と返すしかできなかった。


 私のチキン……!!


 椅子を追加して座ろうにも、人の多いお昼時の食堂に余っている椅子は無い。

 私は立ったまま、机の上のメニューに触れると、持ち帰りのサンドウィッチを注文し、出現したサンドウィッチ入りの紙袋の取っ手を腕に掛ける。


「え、えっと、席もいっぱいですし、私はお部屋ででも食べますね!! お二人とも、ごゆっくり!!」

 そう言って彼らに背をむけ早足で出口へと向かう。


「お、おい!!」

 シリル君の焦ったような声が背中を突いたけれど、聞こえないふりをして私は食堂から出て行った。

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