【Sideシリル】とある騎士団長兼教師の後悔



 カンザキに知られていた。

 いつからだ?

 いつからエリーゼのことを知っていた?

 

 誰かが彼女にエリーゼのことを教えたのか?


 いや、その線は低いだろう。


 私がエリーゼを蘇らせようとしていることは誰も知るはずがないのだから。


 気づいているとしたら、あの油断のならないエルフ──フォース学園長だ。



 だが彼がわざわざカンザキに教えるとは思えない。


 できることならば知られたくはなかった。

 この、命をかけた術のことを。

 私が、彼女の前からいなくなろうとしているということを。

 知られないまま、ひっそりと贖罪をし、消えていこうと思っていたのに。



『この世界について、ある程度のことが載っている物語がありまして。それで知っているんです』



 ──5年前。

 彼女がこの世界へと現れたその日に言っていた言葉がふと思い出される。



 あの時はそれどころではなくて深く考えてはいなかったが、まさか……。



 ──最初から知っていた──?




 5年前の聖女誘拐だけではない。

 彼女は、これから何が起こるのかも、過去、何が起こったのかも知っている──。


 そう考えれば全てが辻褄が合う。



  時間がないと言いながら必死で魔法や剣を学んでいたのは、これから起こるであろう戦いに備えるため?



 なぜ自分に話してくれなかったのかというほのかな怒りと、これほどまでに大きな情報を一人で抱えさせていたのかという後悔。



 そして私の先程の態度……。



 途端に先程の後悔だけが大きくなり渦巻いていく。



 話さなければ。

 私の過去全てを。

 聞かなければ。

 彼女の抱えているものを。



 そう思い、ここにいるのではないかとやって来た聖域には、彼女の姿はなかった。

 代わりに緑の頭が揺れているだけ。


「フォース学園長。彼女を……カンザキを見ませんでしたか?」

 背後から静かに近づいて声をかけると、フォース学園長はしたり顔でこちらを振り返り「ついさっき旅に出たよ」と答えた。


 旅に?

 どういう……。

 その言葉の真意が分からずに私が眉を顰めると、この狸は喉の奥でクックと笑ってから再び口を開いた。


「あの子は出会わなければならない。──君にね。そして少しゆっくりと、【一人】だけれど【独り】ではない場所で考える時間を持たなければならない。でないと、あの子の心は壊れてしまう」


 壊れてしまう。

 その言葉が少しだけ胸に刺さって痛みをもたらす。


「私に……出会うというのは?」

「今は知らなくても良いことだよ。さぁ、あの子があちらに行っている間に、僕たち大人はこれからのことを考えよう。あの子が戻ってきたら、その時は優しく受け止めてあげてね。あぁそれと、【これ】は君が預かって、帰ってきたら渡しておいて」


 言うだけ言って、この掴み所のないエルフは音もなく聖域からどこかまた別の場所へと転移してしまった。

 学園長が去った場所に残された一振りの剣。

 独特な形状の、あの小娘の剣だ。

 それを手に取ると、くくりつけられた鈴が寂しげに鳴り響く。


 勝手な……。



 戻って──……くるのだろうか?

 途端にらしくもない底しれぬ不安が襲う。


 だが今の私には待つことしかできないのが現実。



 風に凪ぐ広い湖を見つめ、私はただ彼女の笑顔を思うのだった──。





──後書き──


第二章完結です!!

ここまでこの物語を見守って来てくださった皆様へ感謝を込めて♪

アイラブユーーーーーーっ!!!!!!


第3章からはなんと闇に覆われつつある過去のグローリアス学園が舞台!!

ヒメちゃんが15歳シリル君と●●しちゃったり、闇を蹴散らすために奮闘したり、シリアスどこいった!?なテンションでお送りします(笑)


そして!!

過去ならではの人物、エリーゼやシリルのお父さんも登場!!


よろしければフォローや☆で評価応援、レビューなどいただけると物凄く喜びます!!

もうね、本当、支えなんです、景華の。


これからも人魚無双を、よろしくお願いします!!


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