第3章 そして少女は彼と出会う

私と彼の1週間ー1日目ー出会いは唇からー




「いぃぃぃぃぃぃやぁぁぁぁぁぁぁ!!」


 私は今、落ちている。

 すごい勢いで。

 ただただ落ちている。


 夕闇に染まる空を地上に向かって真っ逆さまに──。


 私が向かうその先には──。



「湖ぃぃぃぃぃぃ!?」


 この高さから落ちたら流石に死ぬわ!!

 推しの幸せのために私は生きる!! ──にもかかわらず、志半こころざしなかばで死すわ!!


 シュンッ──!!

 私は咄嗟に風魔法を体に纏わせる。


 落下スピードが少しだけ緩やかになったところで辺りをよく見ると、湖の周りにはクリスタルが点在している。

 これは──聖域?


 そしてよく見れば私の真下、暗がりの中にぼんやりと浮かぶ銀色。


 風魔法によって少しずつ緩やかな降下になるものの、完全にスピードを止めることもできず、そのままその銀色に向かって私は一直線に落下した。


 え?

 人!?


「いやぁぁぁぁぁどけてどけてどけてぇぇぇぇ!!」


 このくらいのスピードになったなら、おそらく死にはしないだろうけれど、痛いもんは痛いだろうと思う。



「ん?」


 私の声に反応して銀色がモゾりと動いて宙を仰いだ。


「っ!!」


 刹那、アイスブルーの双眸そうぼうと視線が絡む。


 え──……。


 それも束の間、私はその端正な顔面へと容赦なくダイブした──。



 ドンッ──……。


「んむっ!?」

「っ……!?」


 身体への衝撃とともに、唇に確かな感触……。


 すぐ目の前には大きく見開かれたアイスブルー。


 え…………。

 私──口……き、キス……してる!?


 私は彼の身体の上へと乗り上げ、彼を地面へと押し倒す形で、少し乾いたその唇を奪っていた──。



「っ!! ごめんなさい!!」

 私は慌てて飛び上がると、先ほどまで私の下に敷かれていた彼を見る。


 あれ……?

 違う……?


 短く揃えられた銀色の髪に、私と同じグローリアス学園の制服。


 先生……じゃ……ない?


 色合いは先生そのものだけど、少し幼さの残る青年──少しジオルド君にも似ている。

 マント飾りは先生と同じ深い赤色のガーネットだけど、髪は短いし何より制服って……。



「なっ……今……く、くち……」

 未だ口元を押さえてパクパクしている少年に、私は現状を把握するため「あ、あの」と声をかけて近づく。


「寄るな変態!!」

 瞬間氷のつぶてが彼の手のひらから容赦なく飛んでくる。


「!!」

 私はすぐに飛び除けるけれど、至近距離からのそれに頬を少し掠ってしまった。

 ピリッとした痛みが頬に走り、思わず顔を歪める。


「危なかった……!!」

 咄嗟に避けたものの、私じゃなかったら今頃氷漬けになっていただろう。


「危ないじゃないですか、先生!!」


 いくら怒ってるからって本気で殺しにかからなくても!!

 私の叫びに彼は眉間に皺を寄せ「先生?」と小さくつぶやいた。


「誰だそれは。私はシリル・クロスフォード。──この学園の一年生だ」




「へ……?えぇぇぇぇぇぇぇ────!?」




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