神様の意地悪
幸せな時間を過ごした後の悲劇だったように思う。
なんて残酷なんだろう。
それすらも包んでいく炎。
『許さない──なんで──』
いつもの低く唸るような声とは違う。
少しだけ【幼い】女の声。
その後に響くのはまた【別の女性】の悲鳴。
これが私の──本当の母……。
「っは!!」
目を覚まし飛び起きた私の額から汗が流れ落ちる。
「はぁっ……はぁっ……」
気持ち悪い。
私はゆっくりとベッドから起き上がると、先生の部屋へと続く扉を開いた。
カチャ──……
「起きたか。身体の調子はどう──っ……ひどい顔色だ。どこか具合でも悪いのか?」
心配そうに私の顔を覗き込む先生。
こんなに心配してくれるなんて……今の私はよっぽどひどい顔をしているんだろう。
「大丈夫ですよ。少し、夢見が悪かっただけなので……」
私はいつもの笑みを貼り付ける。
「……」
あ、信じてない。
疑わしげに目を細めて私を見る先生に、先ほどまでとはまた違った汗が噴き出る。
私がどうしようか、と考えていると──。
コンコン──。
私は咄嗟に先生のマントの中へと身体を潜り込ませる。
一瞬で先生の匂いに包まれた私に、彼のマント内に逃げ込んだことへの後悔の念が襲う。
こんな先生のいい匂いに包まれてたら私……私……確実に先生を押し倒す……!!
でも今出るわけには……!!
バンッ──!!
返事も待たずに部屋へと入っていたのは、予想通りレオンティウス様。
「シリル!! ヒメいる?」
「レオンティウス……ノックの後、返事を待ってから入れといつも──」
「そんなことどうでもいいのよ!! 鍵かけてない方が悪いのっ!! それよりヒメよヒメ!! まだ寝てる?」
私の名前が聞こえてビクッと反射的に身体が跳ねる。
今レオンティウス様に会いたくない。
きっと、私が【彼女】だと気づいたんだろう。
何も答えの出ないまま、自分でも混乱したまま会っても、私は彼に何も返すことはできない。
私が先生のマントの中でぎゅっと彼の服を掴み身体を硬くすると、頭上からはぁ……とため息が一つ降ってきた。
「いない。朝早くからどこかに出かけていった」
いない?
先生、もしかして庇ってくれた?
「そう……じゃ、見かけたら私が探してたって言っておいて」
肩を落としそれだけ言ってから、レオンティウス様は慌ただしく部屋を後にした。
「……行ったぞ」
「すみません」
「なぜ避けるかはわからんが、落ち着いたら一度きちんと話し合うことだ」
「……はい」
私は名残惜しくも先生のマントから出ると、ソファへと座り直した。
「私はこれから君が昨夜話したことを確認するため、グレミア公国の騎士団長へコンタクトを取る。君は今日は部屋でゆっくりしていなさい」
「わかりました」
先生は私の返事を確認してから頷くと、漆黒のマントを翻して部屋から出ていった。
一人になった私は、部屋に戻ってからベッドの上へと身体を投げ出すと、
さっきまでの先生の匂いを思い出しながら、ぐりぐりとそれに顔を埋める。
整理しよう。
私は神崎ヒメ。
いや、本当はヒメ・カンザキ・なんとかかんとか、セイレ。(長くて忘れた)
3歳の時に先生と出会ってその日のうちに何者かに襲撃され、国王と王妃──私の本当の両親──によって、前王──私の実のおじいちゃん──の元いた世界へと転移させられた。
前王は私が元いた世界で生まれ育った日本人で、私みたいななんちゃって異世界転移ではなく本物の異世界転移を果たした人。
魔法で魔力を封じられて、目の色も偽装されていた。
で、なんらかのはずみで再びこっちの世界に戻ってきて?
世界観移動の影響で年齢に誤差が生じて?
本来20歳だった私は10歳になって転移したけど、先生が25歳である今ならば、帳尻が合うから本来の年齢20歳に戻ることができる?
先生の老化待ちだったってこと?
ただし元の姿に戻るには膨大な魔力がいるから、王位を継いで古からの王の力を受け継がなければならなくて?
頭の中詰め込みすぎてるんだけども。
でも、もし私が王位を継いで力を受け継げば、【
そしてきっと彼女はここに留まることになる。
私は、二人をあの城で見続けなければいけない。
先生の幸せを願いながらも、二人が幸せになった姿を側で見続けるのはいやなんて、我ながら呆れる。
女王となるのなら、遠くないうちに結婚を強いられるだろう。
私は好きでもない人の隣で、好きな
あぁ……。
私には無理だ。
神様、あなたは何て──。
意地悪なの──?
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