与えられた真実と選択
私が向かった先──。
それは私にとっても、
夜でも淡く光を放つ水晶のおかげで、夜の森特有の不気味さを感じることはない。
むしろ幻想的で、とても美しくて、それでいてとても安心する。
私は湖の辺りに静かに腰を下ろすと、ただぼーっと水面に映る月を眺めていた。
「──やっぱりここにいたね」
穏やかなバリトンボイスが聖域に響いて振り返ると、そこには大人の姿をしたフォース学園長がいて、こちらを優しく見つめていた。
「……騎士団の会議ではないんですか? ──私の……ことで……」
不貞腐れたように発した低めの声。
あぁ、可愛げのない……。
「もう終わったよ。ヒメのことは、レオン、1番隊、クレア、セレーネに
なんてえげつないことしてるんだ、このじいさん。
「──フォース学園長は……知っていたんですか?」
だって彼は、最初に言ったもの。
“おかえり”──って。
あれはおちゃめなじいさんの、おちゃめな言葉なんかじゃない。
今になってはっきりと理解する。
彼は知っていたのだ。
私が──【
「うん……。ごめんね」
困ったように視線を下げて潔く謝罪の言葉を述べるフォース学園長に、私はグッと拳を握る。
「っ……なんで……!! なんで今までずっと黙っていたんですか!?」
「言ったところで、混乱させるだけだったからね。3歳であちらへ転移させられた君は、こちらのことなんて覚えていないだろう? それに君は、物語の世界だと思い込んでいたようだったからね。このまま、何も知らないまま、幸せに暮らしてくれることを願ってた。まぁ……言い訳に聞こえるかもしれないけどね」
フォース学園長は私の隣に歩を進めると、月を映し夜風に揺れる水面を見つめた。
「君は昔から、この場所が大好きだったね。よくここで、レオンと一緒に遊んでいた。不貞腐れた時なんか、よく城から逃げてここに来ていたしね。全く、お転婆な3歳児だったよ」
よく迷子にならなかったな、3歳児。
「ここで君の魔力検査を行ったのはね、この場所が、君に会いたがっていると思ったからだよ」
私の魔力検査を行ったのはこの聖域だった。
けれど普通は15歳になると各地域の神殿で行われるらしい。
あの時は何も知らなくて何も疑問に思わなかったけれど。
【おかえり。待っていたよ】
魔力検査の時に聞こえた気がしたあの声は、幻聴なんかじゃなかったんだろう。
「……クロスフォード先生は、ご存知だったんですか? 私が……その……【
婚約するはずだった姫君が私だったとか、気まずい。
「いいや、知らないよ。従兄であるレオンですら知らなかった。なんせ彼らは、
「パルテ先生とジゼル先生が?」
予想外の人物たちの名前に驚きフォース学園長を見る。
あぁでも、あの時のあのよそよそしさを思い出せば、それも納得できる。
「うん。あの剣は、君が15歳の誕生日に受け継ぐはずだったもの。前王の剣をもとに、パルテが作ったものだからね。ジゼルも前王の一風変わった剣を知っていたからこそ気づいたんだろう」
15歳……。
じゃぁ、あの箱は……。
「数字の書かれたあの箱は、元から私に?」
「うん。あれは全て学園の意思が、君の両親の思いに忖度して送り続けたもの達だろうね。魂すら残らず燃やされた彼らだけれど、彼らの意思や想いは学園の意思へと継がれていたんだ」
両親の……思い……。
「死に際、君を生かそうと、前国王が生まれた世界──君のいう元の世界へと咄嗟に君を転移させた。瞳の色と、その魔力を封じて。彼らが殺されなければ……生きていたならば、一緒にやりたいことも、君に渡したいものもたくさんあっただろう。それがあのプレゼントたちだ。君への、彼らの愛だよ」
両親の愛──……。
わからない。
あれだけ焦がれたはずなのに、現実味がない。
「でもなぜ?
いや、もはや自分の年齢定義などとっくによくわからなくなっているのだけれど。
「君の、ここへくる前の年齢は?」
……20……歳。
今の先生と──5歳差。
「まさか……」
「そう。世界間移動の影響だろうね。君が10歳の姿になったのも、再びこちらにきた時に時間の干渉を受けたからだろう。シリルは今25歳。今なら時間の帳尻合わせをすることもできる。君が望むならば、ね」
「!!」
フォース学園長の口から飛び出した爆弾発言に、私は口をポカンと開けたまま固まってしまった。
思考が追いついていってくれない。
世界間移動の影響で私は10歳の姿になって?
時が満ちたから元の年齢である20歳に戻れる?
「どうやって……戻るんですか?」
やっと出た言葉は少しだけ震えてしまった。
私がたずねると、フォース学園長は少しだけ切なげにその深緑の瞳を揺らしてゆっくりと口を開いた。
「──王位を継ぐことだ」
──オウイヲツグ……?
「王位を継ぐことで、古よりの王の力を継承することができる。今よりもっと魔力が増えるし、その力で君はすぐに20歳の姿に戻ることができるだろう」
魔力が増える?
今よりもっと?
なら……。
「ただし」
私がすぐに答えを口にしようと口を開きかけると、フォース学園長がすかさずそれを遮断した。
「君は、普通の学生としての君の時間を失うことになるよ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます