招待状とパートナー



「──ッ!! はぁっっ!!」

 振り上げた刀を真下に振り下ろしそのまま右へと流せば、私を取り囲んでいた【オーク】の群れは立ち所にバラバラになり地に還っていく。

 風魔法を纏わせた刀の切れ味は鋭く、【オーク】達の唸り声で騒々しかった辺りは、一気に静寂に戻された。


「また腕を上げたのか。ダンスの腕もこれくらい上達してくれればいいのに……」

 ぶつぶつと小言を言いながら私に近づくジオルド君。

 相変わらずの姑感だ。


 私達二人は今、騎士団からの要請で【オーク】討伐をしに、グレミア公国との国境近くの森に来ている。

 他の騎士達は他の森へ駆り出されているため、二人だけでの討伐作戦だ。

 私たち、一応生徒なんだけどなぁ。

 最近の【オーク】増殖で、騎士団も討伐やら公国への抗議と調査やらで忙しいみたいで、まさに猫の手も借りたい状態みたい。

 あれだけよく会いに来ていたレオンティウス様も最近は見ないし、よっぽど忙しいんだろう。



「いいんですっ!! ダンスは私にはあまり必要ないんで!!」

 この5年で人前で踊る機会なんて一度たりとも訪れなかった。

 招待されて最低限のパーティには出たことはあるが、主催者や知人への挨拶が終われば大体すぐに帰る。

 それに貴族でもない私のどこにダンスが必要なんだろうか?

 って……言ったらきっとこの姑に論破されるだろうから言わないけど。


「お前な……そんなこと言ってていいのか?」

「へ?」

「シード公爵家から招待状が来ている。兄上と僕と──お前宛で」


 シード公爵家──レイヴンの家だ。

「婚約披露パーティを行うらしい。メルヴェラ嬢の」

「メルヴィの!? ついに!?」

 メルヴィとラウルの婚約披露パーティ。

 最近、いつもメルヴィとクレアの3人で食べていた食事に、マローとラウル、それにジオルド君とアステルも加わって賑やかに食べることが多くなった。

 学科は違っても意外と打ち解けているジオルド君とアステル。

 メルヴィとラウルも話す機会が多くなってからどんどん親密になっていったように思う。

 よく二人で図書室に行って勉強している姿をアレンと一緒にニマニマしながら眺めていることは、メルヴィには秘密だ。

 私と同い年(実際は私の方が上だけど)なのにもう婚約だなんて、貴族ってすごい。


 それでも高位貴族としては遅い婚約らしいけれど、メルヴィは素敵な相手と巡り合い、婚約することになったのだ。

 なんて素敵なんだろう。


「友人の婚約披露パーティなんだ。行かないなんてこと、ないだろ?」

「もちろんです!!」

 私が即答すると、ジオルド君はニヤリと笑って「ならダンスの練習をしろ」と言う。

「なんでそこでダンスが出てくるんですか?」

「今回は公爵家の婚約披露パーティだ。同じ公爵家で、しかも筆頭公爵家のクロスフォード家当主の兄上がパートナーも無しに出席するなんてありえない。当然、お前をエスコートすることになる」


 私が──?

 先生の──?

 パートナー──……!?

 なにそれ聞いてない!!


「えっと、ジオルド君の勝手な想像、ではなく?」

「そんなわけあるか。兄上が言っていたぞ。『カンザキに頼むから、ダンスを少し見られる程度には上達させておいてくれ』って」


 私が先生と──ダンスを?

 ひやぁぁぁぁぁぁっ!!

 そんなご褒美……いいのですか!?


「と、いうことでヒメ。これからパーティが行われる夏まで毎朝1時間は特訓するぞ。逃げるなよ?」

ニヤリと悪い笑みを浮かべるジオルド君。


そ、そんなぁ……。


でもせっかくの先生と踊ることのできるチャンス!!

私、やってみせますとも──っ!!

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