舞うように少女は剣を振るう

「よし!! じゃぁこれ片付けて、撤退するわよ!!」

 沸き立つ彼らに指示を飛ばすレオンティウス様。

 それを聞いて、魔術騎士がすかさず魔道具の小さな小箱ホールを【オーク】の死体の前に掲げる。

 すると瞬く間に【それ】は小箱ホールの中へと吸い込まれていった。


 闇の魔石を組み込んだ魔道具で、箱の中身はブラックホール状態になっていて、討伐した獲物を吸い込んでくれる大変便利な代物だ。

 取り出しも可能で、私も重宝している。


「さ、帰るわよ!!」

 片付いたのを確認すると、レオンティウス様が騎士達を集めて言った。

 全員が安全なグローリアス学園に帰るのを喜び、再び隊列を組んで元来た道を帰ろうとしたその瞬間──。


「グォォォォォォ!!」

「ガァァァァァッッ!!」

 二つの低く大きな鳴き声が私たちの行手を阻んだ。

 地鳴りとともに現れた2つの巨体。


「なっ!!」

「嘘だろ!?」

「あれは──!!」


「────【オークキング】!!」



 先ほどの【オーク】よりももっと大きい。

 おそらく3メートルは超えるであろう、くすんだ緑色の巨体が2体……。

 隣国に多く生息するこの【オーク】種。

 知能を持たない通常の【オーク】がたびたびこちら側に侵入することはあっても、知能を持つ【オークキング】がこちら側に侵入することなど今まではなかった。


「【オークキング】2体か……。私が出るわ。あんた達!! 生徒達を死守するのよ!!」

 剣を抜き騎士達に指示を飛ばすレオンティウス様。

 私はすかさず彼の隣へ並ぶ。

「レオンティウス様!! 私も行きます!! 一匹任せてください」

 そう言うとレオンティウス様は驚いたような表情を浮かべてから、力強く笑った。

「あんたがいるなら100人力ね。頼んだわよ、私の可愛いお姫様」

 ウインクを私に飛ばしてから、レオンティウス様は【オークキング】目掛けて走り出した。



「さて、と──……」

 私はもう1体の【オークキング】へと視線を向ける。


「ヒメ、無茶はするなよ!!」

「気をつけて!!」

 ジオルド君とクレアが心配そうに声をかけるのを私は目の前の標的から視線を逸らすことなく、頷いて応えると【それ】に向かって地を蹴った。


 くるり──くるり──。

 舞うように【オークキング】の身体の周りを一周しながら素早く魔法をその巨体に絡ませていく。

 緑の光の糸が【オークキング】の巨体に絡みつき、やがてそれは蔦となり棘を肉に食い込ませる。


 所々に存在する蕾は【奴】の体力を奪い成長し、やがて美しい紅色の薔薇の花を咲かせる。


 今だ──!!


 私は素早く腰に刺した日本刀を抜き、すばやく風魔法を刀身に纏わせると地を蹴り宙を舞い、【標的】目掛けて三日月型に青白く光る刀を振り下ろした──!!



 肉を断つ感触が腕に伝わり、その手応えを確信する。

 刹那【オークキング】は真っ二つになってその場にドシンと大きな音とともに倒れてった。


「ヒメがやったぞォォ!!」

「すごい! 素晴らしいわ!!」

 背後から一気に歓声が上がる。

 防御魔法の中でメルヴィとラウルが手を取り合って喜んでいるのを発見した私は、小さく笑みをこぼした。


「あんた、もう魔法剣習得したの!?」

 どうやらレオンティウス様も倒し終えたようで、驚きの声を上げながら私の方へやってくる。

 副騎士団長用の白いマントが返り血で赤く染まっている。

「いえ、動く的での修行はまだなので、拘束して動けないように縛らせてもらいました」

「それでも一人でこの速さで【オークキング】を倒すなんてすごいわ!! あんた、頑張ってんのね」

 そう言いながら、レオンティウス様は私の頭を優しく撫でた。


「ふ、ふんっ!! まぐれに決まってますわ!!」

 セレーネさんの声が人だかりの後ろの方から聞こえる。



「ヒメ!!」

 そんな人だかりをかき分けるようにして私たちの目の前に現れたのは、血相を変えたパルテ先生とジゼル先生。

「ヒメ、そいつをどこで手に入れた!?」

 パルテ先生もジゼル先生も、視線は私の右手に握られている日本刀に釘付けだ。

 物珍しいのかな?


「えっと、部屋にあった箱の中に。フォース学園長が、誰かからの私へのプレゼントだ、って」

 クロスフォード先生並みの眉間の皺を作り、険しい表情で私の刀をじっと見続ける先生方に、少しだけ不安になる。

 私、貰っても良かったんだよ……ね?


「レオンティウス副団長。少し急用ができた。後を頼む」

「私も。もう魔物の気配もないようですし、レオンティウス副団長、ヒメ、それにクロスフォード。他の生徒たちを頼みましたよ」

 そう言ってお二人とも転移魔法を発動させ、その場から一瞬にして消えてしまった。


「どうしたんでしょうか、お二人とも」

「…………そう、ね」


 私の問いに生返事を返すレオンティウス様を不審に思いながら、私たちは元来た道を戻り、無事にグローリアス学園へと帰ることに成功したのだった。

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