合同魔物討伐見学
今日は騎士科やAクラスとの合同授業で、朝から騎士団の遠征用転移陣がある遠征準備場に集合している。
広い芝生の上、緊張した面持ちで生徒たちが先生方の訪れを待つ。
「おやヒメや。久しいのう」
「パルテ先生!!」
私とパルテ先生は【歳の差同盟】を結成している仲で、時折お互いの好きな人─パルテ先生の場合は奥さん─について熱く語る会を開いたり、私が思い描いた前の世界にあったものを魔道具として作り出してもらったりと、5年間変わらずお世話になっている。
「どうだい? 学園生活は」
「とっても楽しいですよ!! お友達と過ごしたり一緒に学べるんですもん」
前の世界であまり友達というものに縁がなかった私には、今がとても楽しく、充実している。
こんなに楽しいものならば、もう少し自分からアプローチしてみればよかったな、とも思うほどに。
「あら、ヒメ。久しいですね。元気にしていましたか?」
そう声をかけてくれたのはロングドレスという場違いな服を纏った老女で、騎士科のジゼル先生。
背筋もしゃんと伸びた彼女は、なんと御年1200歳。
なんでも、エルフ族と人間のハーフなんだとか。
300年くらい前まで騎士団で副騎士団長をされていた方で、とても強い。
私もよく剣の修行に付き合っていただいていた。
なんとこのお方、ロングドレスのまま剣で戦うんだぜ。
「ジゼル先生、お久しぶりです。はい、私はいつも元気ですよ。あ、先生、どうぞうちのジオルド君をよろしくお願いします」
私がジゼル先生に頭を下げると、隣でやりとりを見ていたジオルド君が「やめろ馬鹿」と私の頭を叩く。
うぅ、ひどい。
「クロスフォードはよくやっていますよ。騎士団に所属しながらもきちんと課題もこなして」
学生の頃のお兄様そっくりです、とつけられると、ジオルド君は「兄上に!?」と目を輝かせた。
そうこうしているとレイヴンとレオンティウス様、それに眉間に皺を寄せたクロスフォード先生が姿を現した。
ワイルドイケメンなレイヴンと、麗しのオネエ副騎士団長レオンティウス様、超絶美形な氷の騎士団長クロスフォード先生が揃っている姿は、生徒たちを色めき立たせる。
「皆、集まってるな? 今日は騎士団の魔物討伐の見学を行う。Aクラスと騎士科との合同だ。2つの班に分かれて行動してもらう」
そう言うとレイヴンは右手を空へと突き上げ、魔法を放つ。
青と黄色の光が青空に散らばってキラキラと私たちの頭上に降り注いだ途端、手の甲に熱を感じて、私は視線をむけた。
手の甲が青く光を放っている。
周りを見渡すと、他の生徒たちも同様に手の甲が黄色か青色の光に光っている。
「班分けさせてもらった。黄色く光っているものは俺に、青く光っている者はクリンテッド副騎士団長に続け。騎士団の準備が出来次第、詳しい説明にはいるから、今のうちに色別に固まって分かれておいてくれ」
レイヴンが言うと、ゾロゾロと生徒たちが移動を始める。
「よかった。私たち3人、皆一緒ね」
嬉しそうにクレアが青く光った手の甲を見せる。
「ふふ。よろしくお願いしますね」
メルヴィもにこりと笑って自身の手の甲をさする。
「僕達も青みたいだ。お前のお守りか……。まぁ、あの駄犬と一緒じゃないだけマシか」
不機嫌そうに手の甲を見ながら、ジオルド君がため息をつく。
5年経っても相変わらずジオルド君とレイヴンはよく喧嘩をしている。
もはや恒例すぎて、二人が言い合いになっていても『また仲良く喧嘩してるなぁ』と皆暖かく見守っているけれど。
「ジオルドが、お前と一緒で嬉しいってよ」
ジオルド君の隣でアステルがすかさず通訳してくれる。
「勝手に翻訳するな!」
いいコンビだね、ジオルド君。
この二人を見ているとまるで自分の子どもの成長を見守っているかのような心境になるから不思議だ。
「俺達も青だ。よろしくな」
爽やかに笑顔を向けながらそばに寄ってきたのはマローと、彼といつも一緒にいる眼鏡君。
丸い眼鏡の奥のグレーのタレ目が穏やかにメルヴィを捉えている。
「メルヴェラ嬢。ご一緒できて嬉しいです」
眼鏡君がにこやかにメルヴィに声をかけると、メルヴィは嬉しそうに微笑んで「私もですわ、ラウル様」と彼の名を呼んだ。
ラウル?
どこかで聞いたような……。
私が記憶を探っていると、それに気づいたメルヴィが「大司教様のお孫様で、私の婚約者になるお方ですわ」と教えてくれた。
「お話しするのは初めてですね。あなたのことは祖父からよく聞いています。僕はラウル・セントブロウです。気軽にラウルとお呼びください。よろしくお願いしますね」
のんびりとした口調で挨拶をするラウル。
おっとり眼鏡×おっとり眼鏡の癒し系眼鏡カップル……!!
尊い……!! と心の中で手を合わせながら、私はにっこりと笑顔をむけ「こちらこそよろしくです」となんとか普通に言葉を返した。
ジオルド君とクレアがじっとりと私を見ているが、気にしない。
「よーし、準備ができたぞー。皆よく聞け。各班に騎士団十名を配置する。引率は黄色の班は俺とクロスフォード先生。青色の班はパルテ先生とジゼル先生、それにレオンティウス副団長だ」
チラリとレオンティウス様を見れば彼もそれに気づき、ウインクを飛ばす。
その背後では準備を終えた騎士たちがきちっと整列している。
その中にはよく知ったセスターやジャン、フロルさんまでもが混ざっており、私に気づくと皆にっこりと笑顔を向けてくれた。
「戦うのは騎士達だが、油断は絶対するな。詳しい説明は──クロスフォード先生」
レイヴンが先生に説明を促すと、先生は小さく頷いてから前へ出る。
きゃーっかっこいいーっ!!
やっぱりうちの先生、最高……!!
そう思っているのは私だけではないようで、女生徒たちが一様にして熱い視線を送っている。
そんな視線に眉を潜めながら先生が口を開いた。
「まず、今回の討伐目標は【オーク】一体だ。森の東側と西側に一体ずつ出現したと報告があった。【オーク】はかなり凶暴な性格だが、今回は騎士団の各隊から特に有能な騎士と魔術師を集めている。負けることはないだろう」
言いながらチラリと背後の騎士たちを見て圧をかける先生に、顔を引き攣らせる騎士たち。
……かわいそうに。
魔物学でも学んだ【オーク】は、大きな体と強大な力を持つ化け物だ。
私も騎士団について何度か対峙しているが、正直あまり好きではない。
だって、何を言っても理解してくれないんもん。
「各班、騎士団の後に生徒、その後ろを教師が続くことになる。先ほどシード先生が言ったように、絶対に油断するな。そして勝手なことはしないように。道中にも魔物は多い。勝手なことをして死んでも騎士団は責任を負えん」
【オーク】と聞いて不安げにしていた生徒たちが、死という言葉を聞いてざわめき立つ。
だけどそれは仕方がない。
勝手をしておきながら死んだとしても、それは自分の責任だもの。
ましてや実戦となれば、他人のことをカバーする余裕のない戦いだってあるのだから、尚更。
私は先生の言葉にじっと耳を傾け、頷いた。
「では、黄色の班の者は全員、転移陣の上に乗れ。青色の班は後からクリンテッド副騎士団長の指示に従うように」
そう言って移動を促す先生と視線が交差して、私がふにゃりと笑顔を向けると、先生は少しだけ眉間の皺を緩めた。
いつもならさらに渓谷を深くする眉間の皺が……!!
私を見て!!
緩んだ……だと!?
幻ではないだろうかと目を擦ってからもう一度見るが、その時にはもういつもの不機嫌顔で転移陣に乗って、レイヴンや騎士団、黄色班の生徒たちとともに光の中へと姿を消した。
転移陣が作動したことを確認してから、今度はレオンティウス様が前に出る。
「初めまして。私はセイレ騎士団の副騎士団長。レオンティウス・クリンテッドよ。よろしくね、グローリアスのひよこちゃんたち」
そう言って全体に向かって微笑むレオンティウス様に、女子の黄色い声が飛び交う。
さすが麗しのオネエ。
「黄色班も出たことだし、私たちも行くわよ。皆、転移陣に乗って」
私たちは指示通りに、目の前の石畳に描かれた陣の上に乗る。
「俺たちはお前の班か。よろしくな【グローリアスの変態】」
そう言いながらニヤニヤとこちらを見るのはジャン。
隣でセスターも同じような笑みを浮かべている。
こいつら……。
「【天使殿】!! ご一緒できて光栄です!!」
対して目をキラキラさせながら声をかけてきたのは、マローのお兄さんでもあるフロルさん。
そろそろ【天使】はやめていただきたい。
なんだかんだと見知った顔が固まったようだ。
欲を言うなら私も先生の班が良かったぁぁぁぁ!!
「皆乗ったわね? じゃ、行くわよ」
全員が乗ったのを確認してから、レオンティウス様が魔力を陣に流し込む。
「わわっ!!」
「なんだ!?」
陣が光って、あちらこちらから声が上がり、私たちは転移陣のある広場から姿を消した。
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