白い肌とぬくもりと──赤く染まる頬
暖かい。
何かに包まれているような安心感を覚え、ふと、あの先生クッションが頭に浮かび擦り寄れば、キュッと抱き返される。
抱き返される?
そうか、あれはクッションだ。
クッションが包み込めるわけがないし、抱き返してくれるわけがない。
しかもそれは規則正しく上下に動いている。
────動いている!?
私は目をパチリと開ける。
「ひゃっ!!」
これは──人の肌……!?
白い肌が私の目の前に……!!
そして少し上の方を恐る恐る見上げると──
「っ!!」
私の愛するシリル・クロスフォード先生の美しいご尊顔が……!!
しかも私を抱きしめ、前ボタン全開で静かに寝息を立てている。
寝ている先生!!
初めて見た!!
それに先生の胸が……腹筋が……!!
細いにも関わらずしっかりと鍛えられた筋肉が上下に動く。
なんだこの状況は……。
私……まさか……!!
すぐに自身の服を見るが、ただいつも上に羽織っているナイトケープを羽織っていないだけで、乱れた様子のないことに安堵する。
「ん……」
そうこうしているうちに長いまつ毛と共に瞼がふるりと震え、そこからアイスブルーの瞳がゆっくりと顔を出した。
「ひっ!! せ、先生!! お、おはよう、ござい、ます?」
突然の目覚めに驚いた私が身を捩ると「んっ……」と先生が低くどことなく色っぽい声を出す。
初めて聞く先生の声色に、一気に顔に熱がこもる。
「っ……そんな顔をするな!! 早くどけなさいっ」
先生も同様に白い頬を赤く染めながら、私に叫ぶように言った。
「はっ、はい!! すみませんっ!!」
そう言って私は飛び跳ねるように先生の身体から離れ、ベッドの上へと正座した。
「あ、あの……。先生は一体、なぜここに?」
見間違えでなければここは私の部屋のはずだ。
かといって、先生が夜這いなどとは考えにくい。
先生は確実に、される側だ。
恐る恐る私はことの真相を確かめようとする。
先生はベッドから身体をゆっくりと起こすと私をじろりと恨めしそうに見た。
「君はアルコール入りの葡萄ジュースをボトル一本丸々飲み干して泥酔した挙句、ベッドへ連れて行った私を離すことなく眠りについた、以上」
眉間に皺をぐっと寄せ、早口で淡々と説明した先生の言葉に、私は口元を引き攣らせる。
アルコール入りで……泥酔?
私、まさかまたやらかした!?
熱のこもっていたはずの顔面から血の気が引いていくのを感じる。
「えっと……私また何か余計なことをしたり言ったり……?」
思い出されるのはジオルド君の一件。
グーで殴っていたと聞いた時には本当に生きた心地がしなかった。
私が尋ねると、先生のいつもは変わらない無表情が一瞬で崩れた。
「いや……何も」
「いや絶対嘘ですよね!? 目逸らしてるし、顔赤いですよ!? 何か……何かしてしまったんですね!? はっ!! まさか私、先生を食べ……」
「られてないっっ!!」
声をあげる先生に、私は顔の筋肉をわずかに緩め、安堵する。
あと一歩でエリーゼを復活させられるのに、私が先生を食べてしまったとなれば全てが水の泡だ。
何より先生が可哀想すぎる……!!
私はほっと胸を撫で下ろすと「よかった……」と一言呟いた。
それにぴくりと反応し、なぜか眉間の渓谷を深くしてからこちらを睨みつける先生。
「このクッションについてはご紹介いただいたぞ。なんでも、毎晩抱いて寝ているとか」
「ふぁっ!? えっと……それは……!!」
やばいバレた。
5年間守り通した私の最大の秘密が……!!
私が必死に言い訳を考えていると、先生はのっそりとベッドから立ち上がり
「魔法剣の進歩の褒美に、今日は目を瞑ろう」そう言って扉の方へと歩みを進めた。
私は突然の無罪放免に呆然とする。
「とにかく、君はもう他人からもらったものを鑑定魔法を使わずに飲むな。アルコールだったからまだ良かったものの、媚薬の類ならば危ないところだったぞ。──私が」
「うっ……はい。以後気をつけます」
確かに、媚薬だったならば先ほど私が考えていたのも現実にあったかもしれない。
早いところ鑑定魔法を身につけよう。
私は心に固く誓った。
「もし君がアルコールを飲むのなら──私の前でだけにしておけ」
そう言って踵を返して私の部屋から先生は出て行った。
白い頬を赤く染めて。
なぜ赤くなる!?
去り際の先生の赤く染まった頬をばっちり確認していた私はしばらくベッドの上で悶々と過ごすことになるのであった。
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