ジオルド・クロスフォードー義兄妹ー
私が目を覚ましたのは、もう日も暮れた夕食前だった。
少しだけ気だるさを持つ身体に疑問を覚えつつ、サロンの扉を開ける。
そこには穏やかに、拙いながらも会話をする、先生とジオルド君の姿があった。
「起きたか」
「はい。いつの間にか眠っちゃってたみたいですね。ジオルド君と鬼ごっこして疲れちゃったんでしょうか」
そう言うとジオルド君の目が私をとらえ、彼の表情が少しだけ強張る。
なんだか怯えたように見えるのは何故。
「お二人とも、いつの間に仲良くなったんですか?」
「お前……何も覚えてないのか?」
「へ? 何のことですか?」
私は何のことか全く検討もつかず首を傾げると、ジオルド君の力が抜ける。
「くそ……この酔っ払いめ」小さく悪態をつくジオルド君。
「よくわからないけど、お二人が仲良しになってよかったです」
私はふにゃりと笑いながら言った。
そんな私を見て、はぁ、とため息をついてから、ジオルド君は私の桜色の瞳をしっかり見て口を開いた。
「いろいろ、ごめん。あと……、いろいろ、ありがとう。……ヒメ」
少し照れ臭そうに顔を赤らめながら右手を差し出すジオルド君に、私はポカンと顔と手を交互に見てから次第に頬を緩め、その手をぎゅっと握りしめた。
「よくわかりませんが、どういたしましてです! あ、義姉上って呼んでくれてもいいんですよ!」
「何で僕がお前の弟なんだ! どう見ても僕が兄だろう! そうですよね兄上!」
同意を求めるジオルド君に、視線をそらす先生。
時には会話を放棄することも大切だ、と言わんばかりに無視を決め込んでいる。
「兄上からお前のことは聞いた。フォース学園長から頼まれて、兄上が後見人を務めていると。そうとなれば、このクロスフォード家に相応しい淑女になるように、ここにいる間僕がお前を教育してやる!」
ものすごく上から目線だがジオルド君が私を認めてくれているようで嬉しくて顔が綻ぶ。
「まずはダンスからだ! 貴族の淑女たるもの、ダンスの一つも踊れないとなるといい笑い者だからな!! 来い!」
そう言って私の手を引くジオルド君に、私は「え!? 今から!? ご飯〜!!」と叫ぶ。
「一通りできるまで夕食は食べさせないからな!」
ジオルド君の容赦ない檄が飛び、私達はサロンから出ていく。
残された先生は知らない。
すぐに、私のあまりにひどいダンスの腕前を体験してぐったりとしたジオルド君が、教えることを放棄して夕食の席に着くことも。
私が引きずられながら彼を見返した時、先生が口元を緩ませ穏やかな目で私達を見ていたことも。
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