【SIDEフォース】とあるエルフの憂患



「そうか……。歌で治癒を……。それも体内をいじってか……」


 ヒメが、レイヴンの妹であるシード公爵家の令嬢メルヴェラの命を繋いだらしい。

 メルヴェラの容態が芳しくなく、もう長くないかもしれないという知らせをシード公爵からの伝達で知ったのはつい数日前のことだ。


 ヒメのことは、僕のたくさんの目達が、聞いてもいないのに色々と教えてくれる。

 皆、彼女が大好きで仕方なくて、ついて回っているみたい。

 

 ストーカーか。

 あれだね。類は友を呼ぶってやつだね。

 彼女の場合は、シリル限定だけど。


 それにしても、厄介な……。


「あぁ、そうだね。彼女はどんどん強くなる。きっとまだまだ……ね」


 それは、教育者としてはとても喜ばしいことのはずなのに、彼女自身のことを思えばため息しか出ない。


「普通に 魔法を習って、普通に学んで、普通に恋をして、普通に幸せになって欲しいだけなんだけどなぁ……」


 大人達がどれだけ望んだとしても、彼女はおとなしくはしていてくれない。


 彼女は、元いた世界にはこの世界のことが書いてある予言の書のようなものがあると言っていた。

 それが本当なら、おそらく色々知ってるんだろうな。

 現に、少しだけ知っていると僕に言った彼女の目は、ウロウロと落ち着きがなかった。


 多分、少しじゃない。

 大体知ってるんだろう。

 

 あの子が大好きなシリルの過去も、未来も。


 だからあの子は────



「はぁ……見守るしかできないって、つらいねぇ」


 せめて何が起こるかとか教えてくれたら、僕だって手伝えるかもしれないのに。

 大賢者様でも流石に未来予知なんかできない。


 最初に会った時、彼女の心の扉に軽くアプローチをかけてみた。

 何を知っているのか、どう生きてきたのか。

 彼女のことが知りたくて。


 でも、その扉は固く閉ざされていて、僕の魔力でも全く入り込む隙なんてなかった。

 

 きっと彼女は、そんなつもり微塵もないんだろうけど。


「あぁ……ほんと、つらい」


 ぼやいたその言葉を知るのは、僕の周りをとびまわる6色の光のみ──

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