【SIDEシリル】とある騎士団長兼教師の推量


 ヒメ・カンザキが私の前に姿を現して4ヶ月。


 すぐに根をあげると思っていた訓練は一度も休まれることなく、むしろ頻度も難易度も上げて継続されている。


 会議で遅くなったその日は、夜の訓練を自習にしていた。

 

 いつもならばあがっているこの時間。

 私はふと、聖域に立ち寄った。

 誰もいないとわかっていたのに、自然と足が向いた。


 誰もいないはずだった月と星だけに照らされたその聖域に彼女はいた。


 響く荒い呼吸。

 飛び散る汗。


 まるで何かに追い詰められているような表情で、まるで舞を舞っているかのように剣を振るう少女がそこにいた。


 目が、離せなかった。


 美しいと、そう思ってしまった。

 たった10の小娘を。


 バカみたいなことを平気で言って騒いでいるかと思えば、一人追い詰められたかのように訓練に励む姿を、私は何度も見ている。


 先日もそうだ。


 夜中、訓練と食事、身支度を終え寝静まったはずの続き部屋から物音がして、一度だけ、部屋の扉を小さく開けたことがある。

 

 これは安全を確認するためであって、決してやましいことなど何もない。

 が、あんなのでも一応は生物学上は女性だ。

 罪悪感は否めない。


 小さく灯りのついた机に、小さな影が一つ。


 カンザキだ。

 

 机の上には大きな水晶玉が置いてある。

 魔力を測る、魔力測定器。

 彼女は水晶玉に手をかざし、何やらぶつぶつとつぶやいている。


「まだだ……まだまだ全然足りない。早くしなきゃ……早く強くならないと……」


 泣きそうな顔をしてそう言って机に突っ伏した少女に、私は何も言えずに扉を閉めた。


 その時と同じ、追い詰められたような表情。


 君は何をそんなに焦っている?

 まだ10の小娘が。これからまだまだたっぷりと時間があるのに。


 君の目には、何が見えているというのだ。


 毎日傷だらけになりながら、騎士ですら辛いという私の指導を、欠かさずに受ける。


 弱音など一切吐かず。

 むしろこちらが止めるまで、やめようとしない。


 白い手に残っていく傷跡が痛々しい。

 治癒魔法の効かない彼女に、私は血を止めてやることしかできない。

 それでも君は「十分ですよ!」と笑う。



 なんなんだ君は。


 強く澄んだローズクォーツの瞳が頭をよぎる。


 頭痛がひどい。

 あぁ、またあの声だ。



『僕が君の、騎士になってみせる。だから僕と────』



 次の日、レイヴンの家に行くので探すなという鳥が私の元に飛んできたのは、散々城周り、学園、騎士団本部を探し回ったすぐ後のことだった。

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