第2話 百合なんて聞いてない!

「……めっちゃちゃんとしてる家だな……」


この家は私が思っていたよりも広くて二人で住んでいるとは思えなかった。窓はすごく大きいしそこから見える景色はあたり一面大きな草原だけど絶景で、リビングには最低限の家具と食料、ふかふかのソファと二人で座る用の小さなテーブルといすが置いてあった。

なんだか私がいた世界とあんまり変わらない感じ。

異世界でもこんな立派な家があるんだ……。


「……もう昼か。料理を作るから待っていてくれ。何も知らないだろうからこれくらいふるまってやらないとな」


リーヤはこちらに顔を向けるとエプロンを手に取って台所へ向かった。

……リーヤって料理とかできるんだ。魔物なのに。……意外だなぁ。


そしてしばらくして、リーヤが作った料理が運ばれると、かぐわしいにおいが鼻をくすぐった。


「……はい」


リーヤがテーブルに置いた料理たちはどれもおいしそうで、さらに私の大好きなオムライスがあった。


「オムライスだ……私好きなんだよ。偶然?」

「……前のアヤミが好きだった食べ物。偶然だ。……でも少し、今と前のアヤミは似てる。見た目も全く同じだけど性格も少し似てるような気が……」

「……ふぅん。性格が似てるから神様は私を選んだんじゃない? 知らないけど。……んん、オムライスんま~幸せ~……」


私はオムライスのあまりのおいしさに手を頬に添え声を漏らした。


「……っ、ほんとに似てる。それを食べた時の反応、ほんとにそっくり……」


すると、今まで無表情だったリーヤの表情がふと緩んだ気がした。


「……ん、さっき笑ったでしょ」

「笑ってない」

「嘘だぁ」

「……」


リーヤは突然黙ると、そのまま立ち上がり私に近づいた。


「……えっ、なになに?」


困惑する私を置いて、リーヤは私のすぐ目の前までくると私を引き寄せぎゅっと抱きしめた。

最初、自分がどんな状況にいるのかわからなかった私はずっと困惑していたけれど、なんだか抱きしめられることに抵抗はなかった。

……むしろ心地よさまで感じていた。リーヤの肌のぬくもりを感じる。魔物でも体温は高いんだろうか。……あぁ、なんだかずっとこうしていたい。

そしてリーヤが私から少し離れたかと思うと今度は頬を赤く染めゆっくりと顔を近づけ……


「……だぁーーっ!! ちょっと待て!」


そしてようやく私は我に返りリーヤを突き放す。

突き放されたリーヤは少し悔しそうな表情でこちらを見ていた。


「そ、そんな表情で見られても私は……」

「……何もかも似てるんだよ。お前は前のアヤミそっくりなんだ。……こんなことしたのはそれのせいで……」

「いや、少し受け入れた私もバカだったけどさすがにそれは……っ!」

「……す、すまない。悪気は、なかったんだ……」

「……ね、ねぇ教えてよ。前のアヤミとリーヤはどういう関係だったの? こんなことするなんておかしい」


私はずっと気になっていたことをついに口にした。

するとリーヤは、もう思い切ったのか気にしなくなったのか、素直に質問に答えてくれた。


「……私とお前は、恋人同士だった」


少し予想はしていた答えに、あまり驚きは感じなかった。


「でも、私たちは女だよ?」

「……もともとお互い、女の子を好きになるような性格だったんだ。だからすぐにお互い惹かれあった。でも今は前のアヤミじゃない。私の知っているアヤミじゃないはずなのに何もかも似ているんだ。私が愛していたのは前のアヤミのはずなのに……なぜあんなことを……」

「そ、そう……なんだ。なら……許す、けどあんまりこういうことしないでね?」

「できるだけしないようにはするがたぶん無理だと思う。お前がそうある限りは」

「……えぇ」


性格はどうにもできないし……どうしろっていうんだよ……。

そういうリーヤに私は肩を落としていると、リーヤはもう一度私の前に立ち、「ごめん」と小さく呟き突然私を抱きしめた。


「……最後だから。もうすこしだけ、こうさせてくれ」

「な……っなんで……恥ずかしい」

「少しでも、前のあやみを思い出したいんだ」


私は顔を赤らめながらも素直にリーヤの腕の中にとどまった。

こうやって抱き合うのもリーヤにとっては日常だったのかな。それが今日を境にできなくなるのは、私だとしても辛い。しかも自分と付き合っているのに。

だから私はこうやって、このままの体勢でそっと目を閉じた。

暖かいリーヤの肌が私を包むと、私は自然にリーヤの背中に手を伸ばした。

私の行動にリーヤは少し驚いたいるように感じたがむしろ私を抱きしめる力が強くなったような気がする。

あまりの恥ずかしさに少し息が詰まった。


「……リ、リーヤ。これくらいで……」

「あぁ、すまない……」


リーヤは残念そうな顔をすると名残惜しそうに私から離れた。


「……あの、さ。凄く寂しくなったってときはまたこうしていいから。でも、少しだけね」


名残惜しそうなリーヤの顔は、すごく寂しそうで、悲しそうだった。そんな顔されたら、私だって許してあげたくなってしまう。

最初は気の強いイメージだったけど、それが嘘のように消え、今は小さな小動物のようだ。

こんな私との恋だけで、リーヤはそんなに弱々しい表情をするんだろうか。


「……本当か? 嬉しい……」


私の言葉にリーヤは顔を赤らめて自然な笑みを浮かべた。

……すごく、いい笑顔。……かわ、い……

え、私何を考えようとした? かわいいなんて、私はそんなじゃないし……いや、この気持ちはきっとこれだ。友達に対する可愛いだったんだ。同性なわけだし、普通だよ、きっと。


……なんだろう、このもやもやは。

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魔物だらけのスロー(百合)ライフを。 天霧 音優 @amaneko_0410

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