魔物だらけのスロー(百合)ライフを。
天霧 音優
第1話 転生先、はじめての魔物
私は今、得体の知れないものたちに囲まれている。
そう、魔物!!
ギラギラと光る目をした魔物たちが私を珍しいものを見るかのような目で見ていた。
人間のような姿をしているにも関わらずその目つきはまるで獣みたいだった。
「食べる気だよね!? やめてくださいやめてくださいお願いします~!!」
私はそう大声を出しながら草原をダッシュで駆け出した。
どうやら私は転生してしまったらしい。
でも私はもう高校生くらいの見た目だ。転生っていうのはてっきり赤ちゃんの頃から始まるのかと思ったけど違うらしい。
あと、神様にあった気がする。それで確か「人生やり直して美少女になりたい!」的なことを言った覚えがある。あれのおかげだろうか。でももしかしたらこの体は元々誰かのもので私の魂だけがここへ移ったとか? そんな感じだろう。
だけど今は絶賛ピンチなのだ!!
こんなことを考えている場合ではない!
「ぎゃぁぁぁ!!!」
広い草原に私の声だけが響き渡った……。
って死んでないよ!?
生きてるから! 生きてるんだけどもう死ぬかもしれない……! 目の前まで魔物が迫ってるの〜!!
私がピンチの状況で慌てふためいていると魔物が突然口を開いた。
「お前誰だ……? アヤ、ミ?」
「……へ? しゃべった……ぁ?」
私は素っ頓狂な声をあげた。
どうやら私の知らない異世界では魔物まで喋るらしい。
口を開いたのは、髪が長くて普通の人間とさほど変わらないような女の人(?)だった。
この人だけは普通に洋服のようなものを着ている。
言うならば魔族かもしれない。
それにさっき家から出てきたような……? まぁ、気のせいか。ていうかアヤミって誰!
「誰だ?」
「あっ……え〜とあの〜……」
「誰だ?」
誰だって言い続けるbotですかあなた!?
「あぁ……えっと……! その〜あの……」
「……あぁ! めんどくさい! 誰かと聞かれたのだからきちんと答えるのがマナーというものではないのか」
さっきから私に誰だとしつこく聞いていた魔物が、今度は私をにらみつけた。
「はい、すみませんでしたぁーっ!! 頼むから食べないでくださいお願いしますーーー!」
私はそんな魔物が怖くて大きな声でそう叫ぶと土下座をかました。
「あ、あと私の名前は……! 名前……」
そう言った後私はまだ名前を知らないことを知り、ふと目についた胸元を見ると、見慣れた日本語で「アヤミ」と書かれていた。
親切な世界だ……魔物がいること以外は……。
「アヤミです! 食べないでください! 美味しくないんです!」
私は土下座の体制のままで大声で言った。
「うるさい! 少しは黙れないのか……っ⁉ 大声は耳に響くだ! しかも、別に食べないし頭を下げる必要もない、わかったらさっさと頭を上げろ!」
いや、あなたも十分大声出してるしうるさいじゃないですか……。
でもそんなこと言うと殺されてしまいそうだからそっと胸の奥に閉じ込めておいた。
私が「優しい」から!!!
「……すみません。そ、それであなたの名前は……?」
「私は魔物のリーヤだ。この体はもとは人間のものだが私がのっとったのさ」
……乗っ取った!? その体は人のものだったんだね……かわいそうに、ご愁傷様です。
「えっと……話せるのもそれのおかげだったり……?」
私がそう言うとリーヤは無言で頷いた。
……そうなのか。ただの魔物だったか。魔族だったらどうしようかと思った。
いや、勝手な偏見なんだけどさ。なんか魔族って怖いイメージがあるから、ね。
「へ、へぇ。それで……私になんの御用で……? あと、周りの皆さんあなたが喋り出した途端逃げてしまったんですけど……」
さっきまで私に群がっていた魔物たちは綺麗さっぱりといなくなっていた。
あの圧はもう受けたくない……。
「……ただ、いつもいるお前が今日はなんだか様子がおかしいように見えたから私みたいに体を乗っ取られたんじゃないかと思って……」
……いや、自分が被害者みたいに言ってますかどあなた加害者側ですよ⁉︎⁉︎ ん? ちょっと待て。さっき「いつもいるお前が」って言った?
「あの。いつもいるってどういうことですか? 私、ここにきたの初めてなんですけど……」
私がそういうとリーヤは少し考えてから納得したように言う。
「……あぁ、やっぱり転生者か。魂だけ入れ替わってるんだな。よくあるんだよ、この世界。転生だとか転移だとか。まったくめんどくさい。……というか、お前の体の持ち主の魂はどこに行った?」
「え、さあ……? 私は神様にあった記憶しかありません」
「……神様? 神様とか本当にいるのか?」
あ、そこ食いつくんだ。意外……。そういうのに興味あるのかな。宗教とかにすぐ騙されそう。
私はそんなふうに思いながら微妙な表情をするもきちんと答えた。
「……まあ、うっすらと記憶が残っているだけなんですが。それで私は「人生やり直して美少女になりたい!」って言いました。それがこの結果ですよ。ほら、可愛いでしょう? 私」
私がそう言ってくるくると華麗に回ってみせるも、リーヤは私を呆れたような表情で見つめ、私が思っていたのとだいぶ違った。
……な、ななななななんだよその目!!! 私が欲しかったのは笑顔の頷きであってその憐れむような呆れたような目は必要ないんだよ! こんなのあんまりだ!
「……アヤミ。もう少し考えたほうが身のためだ」
「……ふぇ?」
……な、なんなのよもう! ただの一言でそんなにいうことないじゃない……。
「……そんなこと言われても……! たったの一言でっ! もう、敬語なんて使ってやらない!」
「私には関係ない」
「……うっ、冷たっ! ……ちょ、ちょっと! さっきの忘れて! 私はもう帰るから!」
私は頬を膨らませ足音を鳴らしながら歩くと、あることに気づいた。
……私家ないじゃん!!!
あ、終わった……。野宿か? 野宿できる? いや、こんな魔物だらけでできるわけない。つまり私は……死んだ!?
「……アヤミ。もしかして家の場所覚えてないのか? ……はぁ。魂が違うからわからないと思うんだけど。……私たち一緒に住んでるんだ」
……ハッ!!!
「……ま、またまたぁ、ご冗談は遠慮なさって? 冗談にも程があるわ……おほほほ……」
大体魔物と人間が同居なんて無いない。ありえないから。
私が欲しいのは平和だし。魔物との同居じゃないし。
……うん、きっと冗談だね。
「いや、冗談じゃないんだよ……。……ほんとのことだ」
「……!? マジなの!?」
「さっきからそう言ってる」
……え、なんでそんなに顔赤いの? え、私たちそういう関係なの? ちょ、やめてよ? 私そういうのには興味ないし……。
「……あのぅ、ちょっとよくわからないんだけど……。私たちは魔物と人間なのに一緒に住んでるの?」
「そう、だいたい誘ったのはお前が来る前の人間なんだよ。ただ、今は受け入れなければお互い住む場所がない。我慢してくれ」
リーヤはスラっというが私にとってはたとえ同姓であってもこの人は魔物で……。……あぁ、もう。
「……仕方ないな。というか魔物なら野宿くらいできるでしょうになんで……」
「魔物だってそれくらい気にする。しかも今は人間の体をしてるんだ。人間だとおもわれて襲われたら困る」
「……襲われる?」
「……あぁ。まぁ一部の魔物だけだがな。その襲ってくる魔物をほとんどが強い魔物ばかりだ。私が敵う相手ではない」
……言い訳がましい~~。
いや、まぁ私とリーヤがそういう関係でないのであれば気にすることじゃないんだと思うけど。
「……まぁ、わかったよ。あんま変なことしないでね?」
「……な、なにを言う!! それに変なことなんて……! 私はそんなことしない!」
「え……?」
そんなに動揺する……? やっぱり……い、いやいや! リーヤに限ってそれはないはず!!
そしてそんな不安だらけの魔物と人間の同居生活は始まった。
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