#21 もう少しきみと一緒にいたいんだ
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すっかり恋人同士のふたりを「カモの巣亭」のジョゼは大歓迎。
そしてエドは思い切ってベスに言う。
ぼくの部屋に来ないか、と……
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パリの秋は夕暮れがだんだん早くなる。カフェでしばらく休んだあと、ふたりはまたパリの街を歩きつづけた。
それまでは別々に見てきたパリの風景をもう一度、ふたりで一緒に見たい、共通の思い出として刻み込みたいと思った……少なくともエドワードはそう思いながら、エリザベスと肩寄せあって歩く一瞬一瞬に、このうえない幸せを噛みしめていた。
このまま離れたくない、ずっと一緒にいたい。
でも、彼女はどう思っているのだろう?
「ねえ、夕食はどうする? 何を食べようか?」
エリザベスが屈託のない笑顔で問いかけてくる。
「そうだね……きみの希望が訊きたいな」
「それなら答えは決まっているわ!」
ということで、ふたりはまた「カモの巣亭」にやってきた。
ジョゼが気をきかせて、この前と同じテーブルをとっておいてくれた。
ふたりが仲直りしたことは、店に現われた瞬間からジョゼにはわかった。
「さて、こんやは何を召し上がる、おふたりさん?」
「もちろん、カモのコンフィを!」
「そうくると思ったわ!」ジョゼが笑い声をあげた。
ごちそうをたんと食べて、ワインの杯が進み、ふたりはこのうえなく満たされていた。
「デザートはわたしからのおごりよ、ヴォワラ!」
ジョゼが出してくれたのはクレム・ブリュレ。しかもテーブルに置いてから、ふたりの目の前でカスタードにお酒を振りかけ、フランベしてくれたのだ。みるからにおいしそうなカラメルができてくる。
「この炎、いまのおふたりを表現してみたの。さあ、仲良くとりわけてね!」
にっこり笑って、ジョゼがテーブルから離れていった。
「カモの巣亭」を出る頃には、すっかり夜になっていた。
パリの秋は寒暖差が激しい。昼間は夏をひきずっているかと思うほどいいお天気だったけれど、日が落ちたとたんぐっと冷えてきた。
それでもふたりはおなかも心も満たされていた。何よりも寄り添って歩いているからぜんぜん寒くなかった。
「よかったら、ぼくの部屋を見に来ないかい?」エドは思い切って言った。
「部屋って、リッツの?」
「うん。他のホテルに移る前に、ぜひ内部を案内させてくれよ。この機会を逃すと次はいつ行けるかわからないし」
「そうよね、わたしがリッツを利用する機会なんてないでしょうし」
「変な意味にとらないで……ただ、もう少しきみと一緒にいたいんだ」
「うん、わたしもよ」
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