#18 「やめろ、ベス!」

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ハロルドは睡眠薬を仕込んだコーヒーを出す。

受け取ったエドの運命は?

そしてエリザベスは悪事に加担させられてしまうのか?


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「さあ、どうぞ」

 ハロルドはふたりにコーヒーを出すと、自分は愛用のマグカップにいれたコーヒーに口をつけた。

 ところがエドワードは、いっこうにコーヒーを飲もうとしない。

「おや、あなたはコーヒーはお嫌いでしたか?」ハロルドが聞いた。

「いや、そうじゃないんだけど、実はパリにきてコーヒーばっかり飲んでて飽きちゃってさ。ああ、コーラが飲みたいなぁ。やっぱりアメリカ人なんだね、ぼく」

「ああ、コーラか。いま持ってきましょう」再びハロルドが奥へ引っ込んだ。

 そのとたん、エドワードはハロルドのマグカップに入っていたコーヒーを、そばにあった絵筆を洗うバケツに捨ててからにすると、代わりに自分に出されたコーヒーをいれて、素知らぬ顔で座り直した。


 やがてハロルドがコーラをいれたグラスを持ってきた。こんどは一つだけ、エドワードの前に置いた。「どうぞ。お代わりもありますから」

 そう言って笑みを浮かべ、マグカップのコーヒーを飲みながら、エドがコーラを飲むのをいまかいまかと待っている。

 すると、それまで何か考え込んでいたエリザベスが突然、グラスに手をのばし、「なんだか、私まで喉がかわいちゃった」と言って、そのコーラをいっきに飲みきった。

 ハロルドが「あ!」と驚いて立ちあがったのと、エドワードが「やめろ、ベス!」と言ったのはほぼ同時だった。


 今度はさらにきつい薬を仕込んだのか、あっという間にエリザベスが意識を失い倒れてしまった。

 あわててエドワードが彼女に駆けより、「べス、目を覚ませ!」と彼女の頬を軽くたたきながら必死で呼びかけ、彼女のからだを揺り動かしている。

 その様子を見て、ハロルドははっとした。

「おまえたち、最初からグルだったんだな!」

「あんたこそ、べスに何を飲ませたんだ!」

「おまえに飲ませるつもりだった薬だよ。それより、何がめあてだ? 金持ちのぼんぼんのふりをしやがって、それも芝居だったんだな?」

「あんたの魂胆はとっくにバレてるぞ! 彼女を悪事に巻き込むつもりだろうが、そんなことは許すものか!」

「ふん、生意気な若造が! おれたちの商売を邪魔するとはいい度胸だ!」

「同じアメリカ人をだますなんて、恥を知れ!」

「なにを!」

 ふたりは取っ組みあいになった。

 身長こそハロルドのほうが高かったが、高校時代にレスリングで鍛えたエドワードのほうが相手をつかまえることには長けていた。だが、ハロルドも必死で相手の手からのがれ、そばにあったイーゼルをやたらに振りまわして、エドに殴りかかろうととしている。

 ところが、しだいにハロルドの動きが散漫になってきた。

「おまえ、なにか、いれたな……」

「だとしたら、それはあんたのしわざだ! あんたが出したコーヒーを飲むほど、こっちは世間知らずじゃないんでね」

「く、くそっ……」

 ハロルドはついに倒れ込んでしまった。


 ハロルドが眠り込んだのを見届けると、エドはすぐさま警察と救急に通報した。

 彼はエリザベスが先にアトリエに入った直後に、パリ警察にハロルドのことを照会していたのだ。

 警察が駆けつけるまでに、エドは急いで梱包をとき、中身を確かめようとした。

 最初にあらわれたのは、ハロルドが描いたらしい肖像画だった。だが、額をはずしてみると、その絵の下には、1年ほど前に盗難されたまま行方不明になっていた名画が(オリジナルの額からはずされた状態で)隠されていたのだった。

 やがて警察が駆けつけると、まだ意識がもうろうとしているハロルドが連行されていった。

 ほどなく駆けつけた救急車でエリザベスは病院へ搬送された。エドに見守られながら。

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