#16 一緒に考えてよ、エド!

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画家の悪事を確信したエドは急いでベスに会いに行く。

ところが彼女からは、予想外の提案が返されて……


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 午後3時か、その前にべスに何か託すつもりだな……エドは急いでエリザベスがいる宿へ向かった。

 その頃、べスはといえば、急ぎでクーリエの仕事が入り午後からアムステルダムを往復する、帰れそうになければ電話をいれるなどとアンヌに伝えているところだった。

 そこへ突然、エドワードが訪ねてきたのでべスは驚く。

 ゆうべ気まずいまま「カモの巣亭」を出てしまったので、何の用件だろうといぶかった。

 べスに紹介されたエドワードのことを、アンヌはアメリカのどこかの御曹司がべスに会いに来たと思いひとり浮き立ったが、深刻そうな彼の表情を見取るなり、ゲスト用のリビングへとおし、ベスとふたりだけにしてくれた。

「いったい、どうしたの、エド?」ふたりきりになるなり、べスが口を開いた。「わたし、これから出かけるから、あまり時間がないんだけど……」

「そのことだ。きょうあのハロルドのアトリエには行かないでくれと頼みに来たんだ」

「またその話? それは昨日も言ったはずよ……」

 堂々巡りになる前に、エドワードは「カモの巣亭」で聞いたハロルドたちのやりとりをすっかり話した。

「どう考えても、きみが連中の悪巧みに巻き込まれる羽目になる。かかわったら取り返しのつかないことになるよ!」


 どうしてこのひとは、ここまで熱心に引き止めるの……彼には何の関係もないはずなのに……エリザベスには不思議でならない。

「ねえ、どうしてそうまでして、行かせたくないわけ?」

「それは……きみのことが、放っておけないからだよ!」

「放っておけないって……わたし、あなたとなんの関係もないのよ! あなたのいう悪巧みを信じるわけじゃないけど……でも、たとえそうだとしても、困るのはわたしで、あなたにはなんの害も及ばない、そうでしょ?」

「きみが困るのが、ぼくは困るんだ」

「なに言っているの?!」エリザベスはわけがわからなくなっていた。

 それでも、彼が真剣にわたしを説得していることは強く伝わってきた。これほど真剣にわたしのことを心配してくれるなんて、いままでの人生で家族しかいない……。


 それに……彼女も、ハロルドの絵に抱いた違和感の意味が、だんだんわかってきていたのだ。

 前夜、リタのひざ元で熱心に絵を描いていた女の子、あの子の絵は拙いながらも愛情にあふれていた。それはひと目見るなり、わたしにも伝わってきた。

 絵を描くうえで大事なのは、技巧よりも対象への愛だ。それはタッチの違いとか、技法の違いとかではなく、好き嫌いを越えた、見る側に伝わらなくてはいけないもの。それが「いい絵」かどうかを決める要素だと、エリザベスはわかりはじめていた。

 ハロルドの絵には、そうした要素がいっさい感じられない、むしろ受け取るのは、はっきり言ってしまえば不快感のようなものではないかしら……。


 しばらく考え込んでいたエリザベスがようやく口を開いた。

「わかったわ。あなたの言うことに耳を傾ける意味があるように思えてきた」

「よかった! じゃあ、きょうアトリエに行くのはやめてくれるね」

「いいえ、行くわ」

「どうして? トラブルに巻き込まれるのは必須なのに!」

「巻き込まれないようにするためよ、というより、トラブルを未然に防ぐために行くの」

「何を言ってるんだい、べス?」

「だって、もしわたしが運ぶことになっていたのが盗難か、あるいは偽造された絵だとしたらどうするの? 盗まれたならもちろん許せないし、偽造ならオリジナルに対する冒涜だわ。そんなことは絵を愛する者として許せない!」

「許せないと言ったって……」

「ねえ、考えてよ、いっしょに知恵を絞って! 今ならなんとかなるはずよ!」

「わかった。君の熱意に負けたよ。とはいえ時間はあまりないぞ。こうなったら一緒に現地に向かいながら考えよう」

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