#15 エド、大芝居を打つ!
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ハロルドの悪巧みをさぐるため、エドはひと芝居打つことに。
そんな彼を怪しみつつも画家は金のニオイに引き寄せられて……
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翌日の昼前。ハロルドのアトリエの地下室で、3人の男たちが密談している。
「……ってことで、あの娘が例の絵をアムステルダムまで運ぶ。相手の了解もとってある。駅で絵と引き換えに小切手を受け取る段取りだ。もちろんあの娘は何も知りやしない。小切手も確認不要でそのまま封筒を受け取ってくれと言ってある」
「だが、ほんとに大丈夫か? その娘に横取りされたらどうすんだ?」
「ばかやろう、あの娘がネコババなんてするか! おれの勘が狂ったことがあるか?」
「そうだけど……」
「いいか、おれはいまサツに目をつけられている。妙な動きをすれば怪しまれる。まして絵を抱えて国境を越えるなんて無理に決まってんだろ!」
「そうだな。あの画を売りさばかないことには、おれたちの儲けは何もない。そこいくと、アメリカのアマっこが絵を持っていようが怪しまれねえな……」
「ああ、おまえたちも面が割れているからな。警察だって目をつけるさ。とにかく先方はけっこう短気なんだ。もう待てないと言ってきた。はやくアムステルダムに送り込まなきゃならない。もしもだ、万が一あの娘がへまをしたって、おれたちがかかわった証拠は残していない。相手もシラを切るはずだ。最悪の場合でもおれたちは安泰ってことだよ」
「まあ、万が一はないことを祈るしかないな……」
「そこでだ、うまく小切手が届いたあかつきには……」
ハロルドが続きを言いかけたところに、玄関の呼び鈴が鳴った。
「おい、もう来たのか?」仲間がびくっとして言った。
「いや、約束の時間は午後だ。いったい誰だ? ちょっと見てくる」
ハロルドが玄関をあけると、見知らぬ青年がにこにこして立っていた。上から下まで、見るからに金がかかった身なりをしている。
怪訝な顔のハロルドに向かって、その青年こと、エドワードが陽気に挨拶した。
「ボンジュール! 画家のハロルドさんだね。ぼくはエドだ、よろしく!」そういって、筋肉質の腕をさっと伸ばし、後ずさりしかけたハロルドの手をぎゅっと握った。
「ええと、どういうご用件かな?」
「実は、カモの巣亭のジョゼさんに教えてもらったんだ、あなたなら同じアメリカ人同士だから、きっと肖像画をすぐに描いてくれるだろうって」
話しながらエドはどんどんアトリエの中へ入っていった。「ぼくはサンフランシスコからきたんだ。見聞を広げるためにヨーロッパ旅行中でね。リッツに滞在してるんだよ」
「ホテル・リッツ? きみが? そんな若いのに?」
「うちはちょっとした資産家でね。ぼくはパリは初めてだけど、リッツはパパの常宿なんだ」
「ほお、それはそれは。で、肖像画といいましたね?」
「そうなんだよ。パリに滞在した記念になると思い立ってね、急ぎで対応してくれるなら代金は惜しまないよ。引き受けてくれるね?」
金は惜しまないという言葉に、ハロルドは断りかけた台詞をぐっとのみ込んだ。
「ふうむ、そこまでおっしゃられるなら……そうですねえ、今日明日はちょっと立て込んでいますが、明後日からならお引き受けしないでもありません」
「あさって? いやいや、できれば今日これからじゃ、だめかい?」
「いやあ、さすがに今日は……」
「ぼくは、ちょうど暇なんだよなあ。わかった、超特急料金としておたくの言い値で小切手を切るよ」
ハロルドは頭を抱えるふりをしてから、おもむろに言った。
「わかりました。では午後3時以降でどうです? その時間に出直してもらえれば」
「よかった! さすが同じアメリカ人だ、じゃあ3時にまた来るよ。メルシー!」
最後までお気楽さをよそおって、エドワードはアトリエを出た。
その前にしっかりと、イーゼルにかかった描きかけの絵を盗み見ておいた。
キャンバスのなかには黒いミニドレス姿のエリザベスがいた。
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