#10 わたし、ひとを見る目はあるのよ!
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意外にもベスのほうがエドを先に見つけてくれた!
顔を上げた彼の目に飛び込んできたのは、まぶしいほどの彼女の姿。
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「こんなところに座り込んで、いったい何をやっているの?」
そう声をかけたエリザベスの姿は、エドが見慣れたそれとはまるで違った。
彼女はあのカウガール姿ではなく、黒いミニのワンピースにやわらかそうなカーデガンを肩にかけている。すらりと伸びた脚には黒のハイヒール、おろした髪はふわっとカールさせていた。そのどれもが、彼女の若さと美しさを引き立てていた。
それはエドワードの目にはまぶしすぎた。
まるで雑誌グラビアの1ページが飛び出してきたかと思ったくらいだ。
エリザベスのこの日のスタイルはすべて、宿のアンヌの手助けによるものだった。宿に戻ったベスから絵のモデルを頼まれたと聞くや、だったらとびきりのお洒落をしないとね、とアンヌは言い出して、娘のポリーヌのワンピースをエリザベスの体型にぴったり合うよう、ひと晩で手直ししてくれたのだ。
「せっかくなら、髪も整えたほうがいいね」とアンヌが言うと、それならわたしに任せてと、同室のドイツ人学生がきれいにセットしてくれた。「姉たちに鍛えられて、こういうことが得意なのよ」と言って。
そうして出来上がったエリザベスの姿に、エドの鼓動はさらに速まるばかりだった。
べスは彼の熱っぽい視線に耐えられず、照れたように早口で言った。
「ねえ、どうしてこんなところにいるかって聞いているんだけど!」
「どうしてって……それよりきみ、どうしたんだいそのかっこうは?」
「ちょっと、わけがあってね」
「絵のモデルをしているんだってね、この前きみと一緒にいた女のひとに聞いたんだよ」
「リタのことね。でもなんで彼女にそんなことを?」
「きみを探していたからだよ」
「あなたが? どうして?」
エドワードは、もしやと思って尋ねてみた。
「ひょっとして、きみがいまモデルをつとめている画家って、アメリカ人かい?」
「そうよ、よくわかったわね」
「それは、もしかして、先日のスケッチを描いてくれたのと同じひと?」
「どうして、そんなことを訊くの?」
「悪いことは言わない、その画家からモデルをやる以上のことを頼まれたら、絶対に断るべきだ。というより、できればモデルもやめたほうがいい」
「何を言いだすかと思ったら……いったい、どういう意味なの?」
「いや、間違っているかもしれないから、詳しいことは言えない。でも、とにかくその画家にはくれぐれも注意するべきだ。それだけはきみに伝えておきたかったんだ」
「へんなひとねえ、いったいハロルドさんをどう注意しろっていうの?」
「ハロルドっていうのか、その画家は? キャンドルスタンドをあげた相手だね?」
「ええ。そうそう、彼、とても喜んでくれたわ。センスがいいって誉められた」
「ふん、本心かどうだか……そのハロルドって画家が少しでも妙なことを言ってきたら、さっさとモデルはやめるんだ」
「ねえ、誰かほかのひとと間違えているんじゃないの? さっきから奥歯にものがはさまったような言い方ね。わたし、なんでもストレートに言うひとが好きだわ!」
「別に好かれようと思って言うわけじゃない、きみのためを思って言ってるんだ」
「そう、だったら話はしっかり聞いたわ。はい、それでおしまい。わたし、もう戻るから」
「戻るって?」
「決まっているでしょ、彼のアトリエよ。いまは休憩時間で、飲み物を買いに出ただけなんだもの」
「心配だなぁ。本当に大丈夫なのか?」
「あなた、けっこうしつこいわね。わたしはただ絵のモデルをしているだけ、ちゃんと報酬だって出るんだから、これは仕事と同じ。引き受けたからには最後までちゃんとやるわ。それにこう見えてわたし、ひとを見る目はけっこうあるほうなのよ。じゃあね!」
そう言うとエリザベスは彼に背を向けて、石畳の道をさっそうと立ち去ってしまった。
なんだ、あの態度。ひとがこんなにも探しまわったっていうのに。もう何が起きてもしらないぞ!
エドはむっとしたが、やはり心配は心配だ。早足で去っていく彼女の後ろ姿をこっそり追いかけていった。
なんだか自分が悪いことでもしているような気がしたが、何かあってからでは遅いんだと自分に言い聞かせて歩みを速めた。
すると大通りから小路に入り、とある古びたアパルトマンのなかへ彼女が入っていくのを見届けた。
どうやらあそこにハロルドとかいう画家のアトリエがあるようだな。
場所はつきとめた。さあて、これからどうする、エドワード・ハート?
彼は自分の心の声に耳を澄ました。答えが返ってくるかのように。
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