#09 どこにいるんだ、ベス?

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ベスの宿泊先を知らないエドは、彼女が立ち回りそうな場所を闇雲に探し出す。

途方に暮れている彼に、差し出された救いの手はなんと……


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「おはようございます、ムッシュウ!」

 いつも以上に早起きをして出かける準備を整えたエドワードを前にして、デスクにいたコンシェルジュが声をかけた。

「おはよう。あの、ちょっと教えてほしいことがあるんだけど」

「はい、なんなりと」

「アメリカの若い女性がパリでひとり旅をするなら、どこに宿泊するか見当がつくかい?」

「それは、かなり漠然としたお尋ねですね。その方は学生でしょうか?」

「大学に入る前といっていたから、学生だね」

「それでしたら、ユースホステルやYWCA、個人で経営するゲストハウスも考えられますね。ほかに何か絞り込める要素はおありですか?」

「そうだよね……いや、いいんだ。雲をつかむような質問で悪かった。なんとか自分で探してみるよ」

「お役に立てませんで申し訳ありません。ですが、このままではわたくしも気になって仕方ありませんから、具体的な情報が少しでもわかりましたらお知らせください。手がかりがないか調べてみますので!」

「ありがとう、その折はよろしくお願いするよ」

 そう言ってエドワードは早々にホテルをあとにした。


 そうだよな、若いアメリカ人学生の泊まり先なんて、とっかかりがなさすぎる話だ。この前会ったときに、もう少しいろいろと訊いておくべきだった。

 自分がリッツに泊まっているなんて言ったら引かれそうだったから、あえて宿泊先の話題を避けたんだ……などとエドワードは思いながら、まずは先日いっしょに買い物をしたアンティークショップを訪ねてみた。

 しかし、やはりというか彼女は一見いちげんさんで、店主からはなんの情報も得られなかった。

 そこで、初めて出会ったとき、自分を助けてくれた場所まで行ってみた。

 すると、あのときベスと一緒だった中年女性がいた。この前とは違う子どもたちの前で何やら教えているように見えた。それがリタで、エドワードは語彙の乏しいフランス語にジェスチャーを交えてベスの居場所を尋ねてみた。

 最初は首をかしげていたリタも、「ああ、あんたはこの前、べスに助けられた殿方だね」とエドワードのことを思い出したようだ。

 エドの必死さから、彼がべスに会いたがっているようだと察したリタは、絵のポーズをとるべスを、やはり身ぶりとフランス語を織り交ぜて、なんとか彼に伝えてみせた。

「絵のモデルかい? そうなんだね?」

 エドの問いに、うんうんとうなずくリタ。彼はお礼を言うと、再びアンティークショップがあったエリアへ戻った。そうだった、彼女はこの前、あの道をおりてきた。あの道の先は、モンマルトルに行きあたるじゃないか。

 となると、きょうもそこにいるのかもしれない。

 頼むからいてくれ……エドワードは祈るような気持ちで丘をめざした。


 マルティル通りを観光客の間をぬって進み、丘の頂上をめざしたエドワードは、画家たちが集まるテルトル広場にたどりついた。

 うわ、こんなに画家や観光客がいるのか!

 いったいどこから探せばいいんだ?

 でも片っ端から探してみるしかない。目印は、カウボーイハットをかぶった栗色の髪をした女性ってことだけだ。


 しかし、そんな手がかりだけで彼女を探し出せたなら奇跡だ。

 案の定、さんざん探しまわってみたが、彼女らしき姿を見つけることはできなかった。走り回って息があがったエドワードは、思わず縁石に座り込んだ。

 だいたい無理な話だよな、いくらパリが狭い街だからって、そう簡単に見つかるわけが……丸くなった彼の肩を誰かがぽんとたたいた。

 顔を上げたエドワードは仰天した。

 なんと、栗色の髪をなびかせたエリザベスが目の前にいたのだ。

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