#08 ベスを助けたい……でも!

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おいしい料理に大満足中のエドの耳に悪巧みらしき話が飛び込んでくる。

ベスに警告すべきか悩みまくるが、肝心なことに気づくのだった!


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 ジョゼが勧めるまでもなくエドワードはたっぷり食べた。おなかがいっぱいでデザートは辞退、ここは素直にコーヒーをいただくことにした。

「お口にあったかしら?」コーヒーを持ってきてくれたジョゼが尋ねた。

「ええ、とてもおいしかった、セ・ボン。あんなコンフィは初めて味わいました。アメリカではああいう繊細な料理はまだまだお目にかかれません」

「ならよかった。パリっ子はねえ、カモのコンフィが大好きなの。お店ごとに味も違うし、家でつくるのが一番だって言うひともいるわ。みんなカモのコンフィの話になると熱くなっちゃうのよ」

「そうみたいですね。こちらのお店ももちろんシェフ自慢の一品ですよね」

「ふふ、ありがとう。これは祖父の代から続く自慢のレシピよ。いまは父が厨房をになっていて、カモのコンフィだけは他のひとには作らせないの。それにいいカモが手に入らなければその日のメニューにも載せないわ。わたしですらレシピを知らないのよ」

 デザートが食べたくなったら遠慮なく声をかけてね、とウィンクをしながらジョゼは他のお客のサービスに向かった。

 食事もおいしかったが、ジョゼとのやりとりも楽しい。

 パリのひとたちは外国人観光客に冷たいというが、この店のひとからも客たちからも全然そんな雰囲気はうかがえない。いいお店を紹介してもらったものだ。

 やっぱり、いいホテルに欠かせない要素は、おいしい料理とあたたかいもてなしだな。ホテルが成功するかは優秀な料理人を見つけることにかかっていると言ったのは誰だったか……

 などとぼんやり思っていたエドの耳に、突然英語が飛び込んできた。

「……うってつけだよ。あのアメリカ娘なら、怪しまれることもない」

 どうやら声の出所は、背中あわせに座っている客からのものらしい。ワインの杯が進んだのか、つい声が大きくなったのだろう。それまでそんな男がいたことに、エドは気づいてもいなかった。

 そして‘アメリカ娘’と聞こえた瞬間、とっさにエリザベスの笑顔が浮かんだのだ。

「だいたい、いまどきカウボーイハットなんかかぶってパリに来るやつがいるか、だからアメリカ人ってのは……」

 語尾は曖昧になって聞き取れなかったが、まちがいなくアメリカ人だ。おそらく周りはフランス人ばかりと思っているのだろう。聴き手が数人いるようだが、英語を話しているのはその男だけだ。酔った勢いで、使い慣れた英語が出たのかもしれない。


 ただ、話の中身から、相手が話す「アメリカ娘」がエドにはエリザベスのことのように思えたし、話している内容がよからぬものだということは直感でわかった。

 いやいや、いまパリを旅行中の‘アメリカ娘’なんてたくさんいるはずだ。思い込みはよくないぞ。

 でも、カウボーイハットだぞ……そんなの、エリザベス以外にいるか?

 やめとけやめとけ、余計なことにかかわらないほうが身のためだ。

 だいたい、外国を旅してトラブルに気をつけなくてはいけないのは誰しも同じだ。だまされるほうも悪い。

 でも、それでいいのか?

 エドは困っているひとを見ると放っておけない性分だ。

 彼はコーヒーカップを置くことも忘れ、思案し続けた。

 そんなエドのことなどまるで気づかず、大声をあげていた男たちは会計を済ませて席を立ち、さっさと店を出て行ってしまった。

 彼らがどんな連中なのか、何をたくらんでいるのかわからない。まったく何の関係もない話かもしれない……でも……。

 やっぱり、一度は彼女に助けてもらった自分だ。もしその彼女が何らかのトラブルに巻き込まれそうなら、見て見ぬふりはできないだろう?

 勘違いなら笑って済ませられることだ、せめて警告くらいはしておくべきだ。

 そう思ったエドだったが、肝心なことに気づいて唖然とした。

 あれだけカフェでおしゃべりしたのに、彼女の宿泊先を聞いていなかったのだ!

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