#07 ようこそ「カモの巣亭」へ!

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記念の絵をけなされて不機嫌になったベス。

でもエドの意見を完全に否定できない自分もいて……

かたや置いてけぼりをくらったエドが訪ねた先は?


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 思いがけずエドワードにつきあってもらい、いい買い物ができたと喜んだエリザベスだったけれど、ハロルドに描いてもらった絵にケチをつけられたような気がした。そのとたん、カチンときてカフェを出てしまったのだ。

 あんな言い方ってないんじゃない?

 でも、彼女のなかで完全に否定できない気持ちもあった。

 実は自分も、描いてもらった直後はものすごくうれしかったのだけれど、改めてみると、どこかひっかかるものがこの絵にはあったのだ。

 プロの画家というだけあって、たしかにうまく描けている。でも、何かしっくりこないものがある。それがなんなのか、自分にはよくわからない……。

 大学で美術を学びたいなんて言っておきながら、素人同然だというエドの意見に対して、しっかり反論できない自分がなんとももどかしく、思わず席を立ってしまったというのが本当のところだった。

 自分にはまだ絵を見る力が全然足りないのかも。そりゃ、テキサスにいた頃は名画に触れる機会がそんなにあったわけじゃない。祖父の書棚にずらっと並んだ画集をため息をついてながめながらも、いつかは実物を見たいと思っていた。

 だからこの旅は、そうした名画や、名画が描かれた場所をこの目で確かめるという意味もあったのだ。

 そしてここは芸術の都パリ。ルーブルやオルセー美術館は言うまでもない名画の宝庫だが、実はパリ市内には無料で鑑賞できる美術館がたくさんあった。なんて贅沢な街なのかしら!

 さあ、明日はそのうちのどこを訪ねようか。

 エリザベスはさっきまでのもやもやをすっかり忘れて明日のプランを立てはじめた。


 かたやカフェで置いてきぼりをくらったエドワードは、なんだかていよく利用されたような気がして、ふてくされた気分のままホテルに戻った。

 その夜は、バーナード氏が勧めてくれた店で夕食をとることにした。そこは地元のパリっ子に人気がある庶民的なビストロで、パリ滞在中に一度は行くべきだと言われた。

 店の名は「カモの巣亭」。

「どの料理もはずれなしだけどね、店名にちなんだカモのコンフィは、ぜひとも味わうべし、だよ!」と、バーナード氏が絶賛していたのだ。

 席は予約しておいた。ホテルから電話して「ひとり」だと伝えるとき、少しだけ寂しい気持ちがあった。エリザベスを誘えたらよかっただろうな……と。


 ええっと、このあたりかな?

 通りの名と行き方は聞いておいたものの、歩き回ってようやく探しあてた店は、路地の奥の奥、ふりの観光客なら気づくはずもない奥まった場所にあったのだ。

「いらっしゃい、ようこそカモの巣亭へ。ご予約のお客さんよね?」応対してくれたのは、気風のよさそうな中年の女性だ。

「ええ、予約したハートです」

「お待ちしてました。さあどうぞ、あいにくこのテーブルしか空いてなかったのよ、それでもいいかしら?」

 案内されたのは店の隅にあるテーブルだった。ほかのテーブルはすべてお客さんで埋まっている。みな自分たちの料理に夢中で、‘よそ者が来た’という視線を投げる者は誰もいない。

「かまいませんよ。実はアメリカ出身の知人から、こちらの料理は絶対に味わって行けと勧められたんです」

「それはうれしいわ、わたしはジョゼ、この店のマネジャーよ。料理を作る以外は何でも担当しているわ。今後ともどうぞごひいきに。で、何を召し上がる?」

「えっと、カモのコンフィがお勧めだと聞いてきたんですが」

「あら、運がよかったわ。最後の一皿よ!」

「よかった。じゃあ、前菜はサラダでパンもお願いします」

「飲み物はどうします? カモのコンフィには赤ワインがお勧めだけど」

「じゃあ、赤ワインを」

「デザートは? ああ、もちろん、あとで選んでもらってかまわないわ」


 料理が運ばれてくるあいだ、エドワードは店内をさりげなく見回した。

 決して大きな店ではないが、満席のテーブルでは誰もがおいしそうに飲み食いしながら楽しげに会話している。みんな心から、このひとときを堪能しているようだ。観光客っぽいひとはいないか、いてもわずかだろう。地元のパリっ子が集まる店らしい。

「ヴォワラ(さあどうぞ)!」

 運ばれてきたカモのコンフィは、思った以上にボリュームがあった。付け合せも惜しみなく盛られている。

「コンフィの付け合せ、本日はジャガイモのソテーよ。さあ、たっぷり召し上がれ!」


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