#05 あの帽子にあの栗色の髪!

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気分転換に散歩へ繰り出したエド。

さまざまな景色を見せるパリの街角で、

彼の目に飛び込んできたのは見覚えのある姿だった!


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 あの日、彼女に現金を押し付けて帰ってしまうなんて、大人げないやり方だったとあれ以来、エドは大いに反省していた。

 それに、本音を言えば、もう少し彼女と話をしてみたかったという思いもあった。 

 最初は生意気そうで、旅のツウぶった言い方にかちんときたが、同時に見せてくれた笑顔に救われたと思ったのも事実なのだ。

 あれから折に触れて、彼女の笑顔が思い浮かんでしまうのはなぜだろう?

 彼女はひとり旅だろうか? 子どもたちを一喝したときのあの勢いはすごかったな。あのとき発した言葉は、ロマの言葉だろうか? 彼女のそばにいた中年の女性はロマのようにも見えた……だとしたらこの地で知りあったのか? となると最初にぼくを取り囲んだ子どもたちと関係があるのか? いや、だったら彼女がわざわざぼくを助けるはずはないし……

「……お代わりはよろしいですか、ムッシュウ?」

「え? ああ、ありがとう。もういいんだ」

 気がつけば彼女のことばかり考えていた。気を取り直そうと思ったエドは、ラウンジを出て部屋に戻り、ジャケットを手にした。

 きょうはもう、ひとと会う約束もない。あてどなくパリの街を歩いてみることにしよう。


 リッツがあるヴァンドーム広場には、かの有名なシャネルをはじめ、なだたる高級ブランド店や宝石店などが立ち並ぶ。景気のいい国から景気のいいひとたちが金をどっさりもってきているのだろうか、ブランド品を買うために行列ができている店まである。

 なんでみんな、あんなにブランド品が好きなんだ?

 もちろん確かな技術と伝統が生み出した名品にはそれなりの価値があるだろう。だけど、名品とはそれを持つにふさわしいひとが持ってこそじゃないのか?


 そういえばあの彼女も、やっぱりブランド品が好きなんだろうか?

 いやいや、あのカウボーイハットだぞ、ファッションの街パリに来ているっていうのに。もっと実用第一のものを選びそうじゃないか。そういう女性のほうがぼくとしては……。

 おいおい、何を考えているんだ!

 もう二度と会わないだろう相手のことを考えたって仕方がない!


 エドワードは頭を振りながら、ヴァンドーム広場をさっと抜けて北へ歩みを進めた。オペラ座やヨーロッパ最古とされる老舗デパート「ギャラリー・ラファイエット」を横目で見ながらさらに北へ進むと、こじんまりした店が立ち並ぶ通りに出た。

 ここは9区あたりか、この道をさらにのぼればモンマルトルの丘に通じるはずだ……。

 あたりを見まわしていたエドワードの視線に、見覚えのある姿が飛び込んできた。

 あの帽子にあの栗色の髪、あの後ろ姿はひょっとして?

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