第141話 ええ、きっと元気に育ちますよ
翌朝、何度か子供たちに起こされながらも、ユッテとアンネさんの協力のおかげでゆっくりと眠ることができた。
「おはようございます、ティナ様。先ほどエディからアレン様の熱が下がったと知らせがありました」
「ほ、ほんと!」
よかったよー。子供たちのことを考えないといけないことは分かっているけど、ずっと心配をしていたんだからね。
「会えるかな」
「そうですね。今アンネさんが様子を見に行かれてい……」
『うっ、うえぇーーん』
おっと、お姉ちゃんのほうが泣き出してしまった。
「その前にお乳の時間のようですね」
私はお姉ちゃんを抱きかかえ左胸に近づける。お姉ちゃんは胸に吸い付き、勢いよく飲み始めた。
『うっ、うえぇーーーん』
弟クンの方も一緒の時間に……双子だからかな?
「はい、ティナ様」
ユッテから右手に弟クンを受け取り右胸に近づける。弟クンもお姉ちゃんと同じように胸に吸い付いた瞬間から全力だ。
コンコン!
「おはようございます、ティナ様。お二人ともお元気そうですね」
アンネさんは数人のメイドを連れ、ワゴンにいくつかの桶を乗せてやってきた。
「おはよう、アンネさん。アレンどうだった?」
「ティナ様、お背中失礼しますよ。アレン様はまだ眠っておられますが、熱も引かれて顔色もよかったですよ」
アンネさんは話しながら桶の一つにタオルをつけ、私の体を拭いてくれた。
寝汗をかいていたからスッキリして気持ちいい。
「会えるかな」
「エディが一晩付き添っていたようですが、咳やくしゃみをされていないということなので風邪ではないようです。お目覚めになられましたらお二人を連れて一緒に参りましょう」
エディが付き添ってくれてたんだ。よかった、病気の時に一人っきりだと寂しいんだよね。
「わかった。起きたら知らせてくれるように伝えて」
「かしこまりました。でもその前に、お子様たちも
そうか、この子たちも汗をかいているはずだからきれいになりたいよね。
メイドたちは手際よく子供たちのお風呂の準備をしていく。お風呂と言っても大きめの桶にお湯を張っただけの簡単なもの。
「お子様たちをお預かりします」
お乳を飲んでお腹いっぱいになった子供たちは、少し眠たそうだけどちょっと我慢してもらおう。
育児経験のあるメイドの手によって、子供たちはお湯の中に入れられていく。初めての感覚に子供たちは驚いたようだけど、すぐに気持ちよさそうな顔になった。
「ティナ様、ご自身でされてみます?」
もちろん、答えは決まっている。ハイだ。沐浴中のお姉ちゃんを桶の中に浸かった状態のままメイドから受け取り、左手で支える。
「こう?」
「はい、顔にかかるとびっくりされますので、気を付けてくださいね」
右手ではお姉ちゃんの顔にお湯がかからないように注意しながら、体の汚れを優しく落としてあげる。そのたびに、まだ見えてない目を開けたり、口を前に突き出したりしている。まだ喋れないから、こうやって気持ちを伝えてくれているんだと思うと愛おしくなる。
「もう、よさそうですね。ティナ様、こちらに」
アンネさんは私からお姉ちゃんを受け取ると、手早く拭いて新しいおくるみに包んでくれた。
ふむふむ、こうやるのか。早速弟クンの方をしてあげようと見てみると、すでに新しいおくるみに包まれていた。残念、次は私がやってあげるね。
コンコン!
あ、もしや……
メイドの一人が用件を聞きに行く。
「ティナ様。アレン様が目を覚まされたそうです」
よかった、目が覚めたんだ。
「それではティナ様、参りましょうか」
私は二人の子供たちと一緒にアレンの部屋へと向かった。
「おはよう、アレン。気分はどう?」
「おはよう、もう平気。子供たちも連れてきてくれたんだ。二人はどうだった?」
アレンは寝間着のままでベッドの上に座っていた。
「寝たり起きたりオッパイ飲んだりかな。もう起きても大丈夫なの?」
「うん、熱も引いたし何ともないんだけど、アンネが今日は起きるなというんだ」
昨日の今日だから仕方がないよね。
「無理はしない方がいいよ。その代わり、今日はできるだけこの子たちとここにいることにするから。ユッテ、いいよね?」
「もちろんです、ティナ様」
私とユッテは子供たちを私のベッドに寝かせる。
元々こっちが私たちの部屋だし、アレンも風邪ではないようだし、戻っても平気だろう。
「それでは必要な物を取ってまいります」
ユッテが部屋を出て行って、ここには私とアレン、そして子供たちしかいなくなった。
「ねえ、アレン。ほんとに何ともないの?」
アレンには色々と秘密がある。それに関係することだったら、他の人がいるところでは話すことができない。
「大丈夫だって。きっと、子供たちが生まれて嬉しくて興奮したんだよ。今だってすぐにこの子たちを抱きしめたいもの」
アレンは子供たちに両手を伸ばした。
私は眠っている弟クンの方をそっと抱き、アレンに手渡す。
「ありがとう。あれ、さっぱりしてる。お風呂入ったの?」
「さっき、沐浴させてあげたんだ」
「沐浴……あ、まだ一緒にお風呂に入れないんだ。へぇー、いい匂い。気持ちよかったねー」
アレンは弟クンを抱きしめ頬ずりをしている。
「何ともないのならいいんだけど、無理だけはしないでね」
「うん、わかってる。この子たちがいるんだからね」
アレンは弟クンの頭を優しくなでた。
コンコン!
あれ、この音はユッテじゃないな。他のメイドたちでもないし……
「どうぞ」
「失礼するよ。みんなこっちにいると聞いて……おお、アレンの顔色もよさそうだな」
お父さんとお母さんだった。
「お義父さん、お義母さん。ご心配かけました」
「なあに、私もティナが生まれるときは似たようなものだったよ。元気になったのならそれで構わないさ……それで、この子たちの名前は決まったのかい?」
名前……そうだ、色々あって忘れてた。
「ティナ」
「な、何?」
「ボク、昨日この子たちに会ってからずっと考えていたんだ。それを言っていいかな」
「うん」
「お姉ちゃんがティーファ、この子がアルト。どうかな?」
ティーファにアルトか……
「いい……うん、いい名前だよ。ねえ、お父さん、お母さん」
「ああ、カペル家の跡継ぎに
「ええ、きっと元気に育ちますよ」
名前が決まったよ。ティーファ、アルト、これからずっと一緒だね。
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