第138話 お二人は固い絆で結ばれていますから、きっと大丈夫ですよ
「それでは、ティナとアレン様の門出を祝しまして、かんぱーい!」
「「「かんぱーい!」」」
結婚式から数日後、ルカたち女子会のメンバーからお呼ばれして、結婚のお祝いをしてもらっている。エリス、ユッテだけでなく、今日は特別にアレンも一緒だ。
「おめでとう、ティナ。コップ空じゃない、ほら飲んで。あっ、アレン様もよかったですね」
ルカが飲み物を持って私たちのところに来てくれた。
「ありがとう、ルカ」
「ありがとう、ルカちゃん……もしかして、ボクはおまけみたいな感じなの?」
「やだなー、アレン様。そうに決まってるじゃありませんか」
みんなから笑いが起こる。
「冗談ですよアレン様。どうですか、初めてここに来られた感想は」
「うん、すごい。賑やかだ。ルカちゃん、いつもこうなの?」
「とんでもない、今日は静かな方ですよ。みんな、アレン様の前だからお淑やかにしているみたいですね」
うんうん、いつもと話している内容からして違うからね。
「こ、これで……」
「ただ、今日はみんなお酒が入っているから、このあとどうなるかわかりません。アレン様、もし失礼があっても許してもらえると助かります」
「も、もちろんだよ。そうだ! ボ、ボクちょっとトイレに行ってくる」
あーあ、アレンたらビビっちゃったかな。
アレンの後姿が見えなくなり、部屋の中に目を移すと、みんなが私の方を向いていた。
「な 何?」
「ねえ、ティナ。アレン様と結婚したということは一緒の部屋なんだよね」
「う、うん」
お試し期間中は、アレンとできる限り二人っきりにならないように部屋を別にされていたんだけど、結婚式の当日からアレンの部屋に引っ越している。
「ということは、当然、初夜も済ませたんでしょう?」
キャーと周りから声が上がる。この中で結婚しているのはこれまでヒルデだけだったから、みんなこういう話に興味があるのだ。
「う、うん……」
「ね、ねえ、どうだったの?」
静まり返ってしまった……
「し、幸せだったよ」
またもや歓声が上がる。
あー、恥ずかしい。きっと顔真っ赤だよ。
「ティナー、赤ちゃんできたー?」
あ、赤ちゃん!?
「わ、わかんないよ」
「私の時はー、なんとなくわかったよー」
ヒルデはのんびりしているけど、子供が二人もいるんだよね……
「「ほ、ほんとなのヒルデ!」」
二人の女の子が食い入るようにヒルデを見ている。この子たちはもうすぐ結婚するから、特に興味があるんだろう。でも、わかるものなのかな、私の場合は赤ちゃんができたかどうかまで分からなかったけど、できてたらいいなって思うよ。
「うわ、ほんとにさっきよりも賑やかだ」
部屋に戻ってきたアレンが周りの様子を眺めながら私の隣に座る。
アレンが戻ってきたことに気付いた子たちは、すぐさま話題を変えてしまった。さすがだ。
「だいたい、いつもこんなこんな感じなんだよ」
「ふーん、何話していたの? 教えて?」
「うーん、ナイショ」
「えー、そんなこと言ってボクの事を話してい……」
「ほらアレン様、こちらも食べてくださいね。二人のために朝から獲ってきたんですよ」
「あ、クリスタちゃん。ありがとう」
ふぅー、助かった。赤ちゃんの話とか恥ずかしくてできないよ。
「それでティナ、アレン様はいつご領主様になられるの?」
ルカが無難な話を聞いてきた。
「あと、四、五年は先かな。お父さんにはまだまだ頑張って貰わないとね。早く引退したらボケちゃうもん」
そうそうと声が上がる。
「それにー、暇になったらぁー、余計なことに口出してくるのー。孫の世話をしてくれるのは助かるんだけどー」
あはは、お父さんにはまだまだしっかりと頑張ってもらおう。
いつもよりも手の込んだ料理が所狭しと並んでいたテーブルの上は、片付けられて空きが目立つようになってきた。
ふぅー、お腹いっぱい。いろいろ冷やかされてタジタジになっていたアレンもどこか嬉しそう。楽しいけどそろそろ時間だ。
「みんな今日はありがとう。ほんと嬉しかったよ。予定があるからお先に失礼するね」
「えー、もう行っちゃうの」
「ごめんね。色々とやることがあるんだ」
街道の整備にクルの元の製造や香辛料の交易、用水路の権利を戻してもらったのでその管理もやっていかないといけない。もちろん、お父さんたちと一緒にやっているけど、若い私たちが動かないといけない。
「ボクも楽しかった。みんな、これからもティナをよろしくね」
私とアレンは立ち上がり、みんなに頭を下げる。
「アレン様ご安心ください。ティナはこれまでもこれからも私たちの仲間です。ほら、みんないくよ、せーのっ!」
「「「ティナ、アレン様お幸せに!」」」
みんなの祝福を受けながら、ルカの酒造所を後にした。
「ねえ、ティナ。さっき何を話していたの?」
お屋敷への帰り道、アレンが改めて尋ねてきた。トイレに行ってた時のことが気になるのかな。
「んー、たいしたこと話して無いよ」
「エリスちゃん、ユッテちゃん、ティナの言うことホントなの?」
アレンは私の口が硬いと思って二人に聞くつもりだ。
「皆さんお世継ぎが生まれるのを楽しみにされているんですよ」
エリスめ、明日王都に帰るからと言ってばらさなくてもいいのに。
「お世継ぎ……か。こればかりは自分でどうにかできるものでもないね。もちろん努力はしているけど。ねえ、ティナ」
「バカ」
こうなるのが恥ずかしくて避けてたのに。
「ふふ、お二人は固い絆で結ばれていますから、きっと大丈夫ですよ」
「そうです。お子様が生まれたらすぐに連絡くださいね。なんとしてでもお祝いに参上しますので」
ありがとう。ユッテ、エリス。
みんなの気持ちが届いたのか、それからしばらくして私のお腹に新しい命が宿っているのがわかった。
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完結まであと少し。最後までお付き合いいただくと幸いです。
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