第130話 あっ、あ……内緒です
「旦那様、アルバンからの紹介状に間違いないようです」
紹介状を受け取った私は二人をお父さんに会わせるために、二階の執務室へと案内した。
レオンさんはその紹介状に入っている印がアルバンさんのものであると確認し、お父さんに手渡した。
「すまんな、レオン。二人とも遠いところからよく来てくれた。紹介状にはクラウスは街で塾の先生を、アンゼルマは屋敷でメイドをしてくれるとあるが、間違いないかい」
クラウスさんはアレンが言っていた、メルギルで先生をして欲しいとお願いした商館出身の人だった。
「はい、私は旦那様のおかげで生きております。何でも致しますので、どうか近くに置いてください」
お父さんのおかげってどういうことだろう。詳しく話を聞くことにした。
「それでは、クラウスさんはアンゼルマさんを助けようとして事故に遭われたのですね」
「はい、私は馬車にはねられるところをこの人から助けてもらって生きているのですが、そのせいで彼は歩けなくなってしまったのです」
そのあとアンゼルマさんは、独身だったクラウスさんのところに無理矢理押しかけて、面倒を見るようになったらしいんだけど、
「事故以来寝たきりになった私は、仕事を辞めざるを得ませんでした。彼女はもういいというのに私から離れようともせず献身的に尽くしてくれましたが、先の見通しが全く立ちません。このままでは彼女を不幸にしてしまうと思い、一時は世を儚もうかと思ったこともありました……でもそんなとき、以前の勤め先からいいものがある。これを使ったらまた仕事に戻れるのではないかと言われ、車いすに出会うことができたのです」
前の職場とはアルバンさんの奥さんの実家の商館で、車いすで動けるようになってからはまた戻って働いて欲しいと言われていたみたい。
「でも、どうしてメルギルまで来ようと思ったの?」
メルギルは田舎だし、王都の商館の方がお給金もいいと思うんだけど……
「私はこの車いすのおかげでまた生きていこうという気持ちがわき、彼女からの求婚も受けることができました。そして、新たな生活を始めるのなら、私に生きる希望をくれた車いすを作ってくださったカペル伯爵様の元でと思い、伝手を頼りにアルバンさんにお願いしたのです」
それに対してアレンは、教師の仕事を引き受けてくれるのならと返事をして、そのことをアルバンさんから伝えられたクラウスさんは奥さんのアンゼルマさんと一緒にここまでやって来たんだって。
「旦那様、改めてお願いいたします。私をここで奉公させてください」
「私からもお願いいたします。私はこの人に命を救われてから、一生この人のために尽くすと決めています。この人はこの通り足が悪く、思い通りにいかないことがあるはずです。その時は私がこの人の足の代わりになって働きますので、どうかこの人の願いをかなえてください!」
クラウスさんとアンゼルマさんは揃って頭を下げた。
「うむ、二人の気持ちは分かった。頭を上げなさい。ただ、この車いすを作ったのはここにいるアレンなんだ。さてアレン、どうする?」
「はい、お義父さん。ボクはこの二人はカペル家に必要な人材だと思います。迎い入れることをお許しください」
「ということだレオン。二人をカペル家で受け入れる準備をしなさい」
「「あ、ありがとうございます!」」
「それじゃ、アンゼルマさんは他の貴族のお屋敷でメイドの仕事をしていたんだね」
「はい、事故に遭うまでずっとお勤めしてました」
アンゼルマさんは普段はメイドの仕事をしてくれると言うので、早速アンネさんのところに連れて行って話を聞いている所だ。
「それではアンゼルマは、お屋敷の仕事をすぐにやれるということですね。助かります」
「あ、待ってアンネさん。アンゼルマさんはクラウスさんが出かけるときは一緒について行くから、考えてあげてほしいんだ」
「あ、アンネ様。申し訳ございません」
「ご主人のために……わかりました。アンゼルマには、新人の指導役を中心にやってもらいましょう。皆さん、という訳ですから、協力してあげてくださいね」
アンゼルマさんの方の受け入れはバッチリだ。クラウスさんの方はアレンとレオンさんがうまくやってくれているはずだから、あとは二人が早く馴染んでくれるかだね。
「そうですか。アンゼルマさんはメイドの教育もやってくれると……これでようやく私もティナ様のお傍で仕えることができます」
いやいや、エリス。これまでも時間を見つけては私のところに来てたよね。
「私だって、アンゼルマさんが来てくれたおかげでティナ様のお世話をする時間が増えるんですからね」
ユッテも張り合わなくていいから。
「クラウスさんって足が悪いのに馬に乗られて来たんですよね。すごいです! どうやって馬に指示しているんだろう。僕に教えてくれないかな。今日みたいなときに役に立ちそう……」
アンゼルマさんをアンネさんたちにお願いしたあと、ユッテと一緒に食堂に来てみたら、ちょうどエリスがひよこのようにぴょこぴょこと歩いているエディを連れてやってきたので四人でお茶をしている所だ。
「聞いたら喜んで教えてくれるんじゃないかな。それで、エディ。今日はどんなことを教えてもらったの?」
「き、聞いてください、ティナ様。エリスさんってすごいんですよ! 今日だって、」
「エディ!」
「あっ、あ……内緒です」
エディは両手で口を押さえてしまった。秘密の特訓なのかな……
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