第119話 これはうちの自慢なの。食べてみて!

 アレンが王都に向かってからの私は忙しい毎日を送っている。

 アレンがいる間は私も一応お客様扱いだったんだけど、下働きの子が来てくれたといってもまだお屋敷の人手が足りないから、仕事を手伝わないといけないのだ。


「ティナ様、そのメイド服よくお似合いですね」


 今着ているのはウェリス家で作った私のメイド服。こっちに持ってきてたんだ。これなら汚れても安心だし、何より動きやすいんだよね。


「そうかな?」


「立ち振る舞いも本物のメイドのようですよ」


 学校が休みの日にアレンに会いに王宮に行くときにはずっとメイド服だったからね。それなりにさまになっていると思う。


「ちょっと待ってくださいティナ様、それではアンネ様から叱られます。そこはこうしてください」


「こうかな……」


 とはいえ、メイドとして修行しているわけではないので、至らないところが多々あるのはご愛敬だ。


「あ、そろそろ、お出かけの時間ではないですか?」


「ほんとだ。それじゃ、着替えて行こうか」


 私とユッテはメイド服から馬に乗りやすい服装に着替えて、馬小屋へと向かう。


「ティナ様はどの馬になされます?」


「私はこの子にするよ」


 私はお父さんとエディから乗っていいと言われた馬のうち、葦毛あしげの子を馬房から出した。一人で乗ることができた最初の馬だからか、なんだか愛着が湧くんだよね。


「それでは、私はこの鹿毛かげ君にします。でも、本当に私も一緒でよかったのですか?」


「うん、今日は街の若い女の子たちとの女子会だからね。ユッテにも話に参加してほしいんだ」


 先日ルカから、友達がティナに会いたいって言うから来てほしいという連絡があった。

 お屋敷の仕事が忙しいからどうしようかと思っていたら、最後に早く来ないと今年の限定酒が無くなるよと書いてあったんだ。これを見ちゃったら行かないわけにはいかないよね。ルーカスさんとファビアンさんに飲んで欲しいもん。

 ただ、こちらの普通の女の子たちのことがよくわからないから、ユッテに助けて欲しいというわけ。


「それでは私について来てくださいね」


 ようやく、文字通り一人で乗れるようになった馬の背中にまたがり、ユッテのあとをついて街の方へと向かう。

 速度は馬が楽に歩いていく速度なので、人間が歩くよりも少し早いくらいだ。もう少し早く歩かせたり、走らせたりする練習もしているけど、そうすると馬の扱いが色々と忙しくなるので、まだ慣れないうちはこの乗り方で行こうと思っている。


「大丈夫ですか?」


「うん、ちゃんと言うこと聞いてくれているよ」


 歩くだけだからね。ほとんど馬任せで大丈夫なんだ。




 私たちはメルギルの中心部を通り抜け、山に向かって進む。途中、農作業をしているおじさんに怪訝けげんな目で見られながらも、何とかルカが待っている酒造所まで行くことができた。


「ティナ、ようこそ! みんなだいたい揃っているよ。中に入って。あ、あなたは初めてだね。名前を教えて?」


 相変わらずルカはせわしない。


「初めまして、ティナ様のメイドのユッテです。よろしくお願いします」


「私はルカ、よろしくね。挨拶はまた後からやるからさ、早く入って!」


「あ、ルカ様、お待ちください。これをお持ちしました」


 ユッテはお菓子が入った袋をルカに手渡す。


「ルカでいいよ。これは?」


「みんなで食べようと思ってユッテと作ってきたんだ」


「へえ、甘いやつなんだ。珍しい」


 ルカは中を覗き込みながら言ったんだけど、お菓子ってみんな食べないのかな。


「いやいや、食べるよ。でもこういう集まりでは漬物が出ることが多いな」


 ところ変わればというやつかな。漬物はご飯のお供で食べることはあってもお茶請けでは初めてだ。どんな感じなんだろう。


 私とユッテはルカに手を引かれ、店の奥へと向かう。


「みんなー、ティナとユッテが来たよー」


 部屋の中には10人ほどの女の子がいて、入った途端、私たちの周りに集まってきた。


「ティナってほんとにご領主さまの娘なの?」

「ユッテちゃんって何をやっているの?」

「ティナとユッテってもしかして姉妹?」


 あわわ、一気に聞かれても答えられないよ。


「はい、はーい。みんな落ち着いて。ティナはご領主さまの娘でユッテはティナのメイド。わかった。それじゃみんな座ろう!」


 ルカの一声でみんな静まり、元の席に戻っていった。


「えっと、ティナとユッテは別々でいいよね。ティナはそこに座って、ユッテはこっち」


 えっ? 今日は、何を話していいかわからないからユッテに助けてもらおうと思ったのに……あーあ、もうルカに連れて行かれちゃった。


「ほら、ティナはこっちだよ」


 振り向くと、小麦色に焼けた肌が印象的な女の子が手招きしていた。


「は、初めまして、ティナ・カペルです」


 その子の隣に座りながら、周りの子たちに挨拶をする。


「カペルさんか……ほんとにご領主さまのお嬢さんなんだね。私はクリスタ、よろしくね。あ、お茶を入れるね。ここにある漬物はどれを食べてもいいよ。ちなみにこれはうちの自慢なの。食べてみて!」


 ドキドキの女子会が始まってしまった。

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