第118話 かなり酸っぱいですよ

「というふうにボクはハーゲンさんに言ったんだけど、エディはどう思う?」


 翌日午前の授業中、アレンが昨日の用水路の件をエディに聞いている。


「アレン様、この方たちはこれまでも水路の草刈りとかはされていたのですよね?」


「うん、そう聞いている」


 用水路は土を掘って作られていて、そこには常に水が流れているから当然のように草が生える。そのままにしておくと水草が水路をふさいだり、落ちてきた枯葉で流れが悪くなったりするから定期的に清掃が必要なのだ。これまではそれを水路を使っている組合員が協力してやっていたみたい。


「掃除した分を利用料から安くするのはいいと思いますけど、こういうのって仕事をする人としない人とで不公平が出ませんか?」


「そうだね。それで、エディならどうしたらいいと思う?」


「えっと……その人たちが用水路を使う場所ごとに担当者を決めて、仕事をちゃんとやったかどうかで翌年の使用料を決めたらどうでしょうか?」


 エディすごい! この前アレンが教えた言葉をちゃんと使えている。それに、内容だって……


「ボクもそう思う。……今日はこれからこの話をもう少し考えてみようか」


「はい!」


 二人ともすごいな。私ももっと勉強しなくちゃ。







「エディ君も、はい」


「ユッテさん、ありがとうございます。それで、ティナ様はアレン様と一緒にお酒を作るところを見に行かれるのですか?」


 エディへの勉強会が終わり、ユッテにお茶を入れてもらってのんびりしているときに、昨日の酒造所について話すことにした。


「うん、仕込みが始まるのが冬らしいんだ。その時にね。ユッテも見たいって言っているけど、エディも行ってみる?」


「はい! 是非行ってみたいです!」


 お酒に興味あるのかな。年齢的にダメだけど、もしかして飲んだことあったりして。


「エディ君って、お酒好きなの?」


 ユッテも気になるようだ。


「こちらのお酒は飲んだことありませんが、お母さんが作ってくれたお酒は飲んでましたよ」


 おぉー、エディの生まれ故郷では子供でもお酒飲んでいいんだ。


「それじゃ、エディ君はお酒に強いかもしれないね」


「それはどうでしょう。僕たちが飲んでいたのはほとんど酒精が入ってない物でしたから……」


 酒精があまり入っていない……それなら子供でも飲むことができるのかな。


「ねえ、エディ。そのお酒はなんで作っていたの?」


「はい、アレン様。春に子供を産んだ馬のお乳を分けてもらって作っていました」


「馬の?」


 そういえば馬のお乳は飲んだことが無いかも。


「ええ、新鮮な馬のお乳を発酵させて作るんですが、僕は遊牧民だったでしょう。冬場は野菜を食べれないから、これをたくさん飲むように言われていたんですよ」


 ということは、エディが飲んでいたお酒は野菜代わりになるんだね。


「私も聞いたことがあります。馬の乳で作った酒を飲む兵士は、肺の病になることが少ないと……」


 ほぉー、近衛兵さんたちの間でも有名なんだ。野菜がいらなかったり病気にならないなかったりって、お酒というより健康飲料なのかな。


「どんな味か気になる」


「かなり酸っぱいですよ。今年は無理ですが、旦那様のお許しが出たら来年作りましょうか? お母さんから作り方習ってましたし」


 エディによると、馬にお乳を出してもらうためには牝馬に子供を産んでもらう必要があるんだけど、幸いカペル家の馬のうち数頭が妊娠しているから、来年の春には子供が生まれるみたい。

 お父さんへの許可は私もお願いしよう。来年が楽しみだ。





 それから、午後には予定通り馬の練習を行い、夕食を食べたあとみんなで食堂に集まった。


「ねえ、アレン。エディの勉強はどうしたらいいの? 今日やったようなことは私はできないよ」


「ティナにはエディがわからない文字を教えてやって欲しい。本はアメリーさんに頼んでいるからそれを使ってくれたらいいからさ」


 そっか、執事の勉強も大事だけど、まずは文字を覚えないといけないよね。


「ティナ様、よろしくお願いします」


「こちらこそよろしくね。馬の方もアレンが戻ってくるまでにもっと乗れるようになっておきたいからね」


 一人で馬に乗れるようになったけど、うまく操れているかというとそれはどうも怪しい。


「二人で大丈夫?」


「アレン様ご安心ください。ティナ様の練習の時には私もお手伝いさせていただくことになりました」


 そうなのだ。ルカが声をかけてくれたみたいで、わずかだけど下働きの子が何人か来てくれることになった。これでお屋敷の人手も多少楽になって、ユッテが私のそばにいる時間が長くとれるようになるから、エディと一緒に私に馬の乗り方を教えてくれるというわけだ。

 それにしても、ユッテがあんなに馬の扱いがうまいなんて知らなかったよ。どうしてって聞いたら、『私は農家の出ですからね。馬と一緒に生活していましたから、これくらい普通です』だって。


「ユッテちゃんも一緒か、それなら安心だね。ん、それならもう働き手は探さなくていいのかな?」


「いえ、下働きの子は集まりそうですが、メイドになるには時間がかかります。経験者が数人いると楽なのですが……」


「アンネさんわかった。ドーリスと王都で探してみるね」





 翌朝早く、アレンはルーカスさんたち近衛兵のお兄さんたちと一緒に王都に向けて旅立って行った。


「ティナ様、急に寂しくなりましたね」


「うん、でもひと月くらいで戻って来るから、頼まれたことをやってたらすぐだよ」


 でも、寂しいよね。アレン早く帰ってこないかな。

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