第113話 えっと、エディ君もお茶でいいのかな……

「エディは文字は読めるの?」


「読めるものと読めないものがあります」


「それじゃ、この中で読めるものを教えてくれるかな」


 アレンは、レオンさんから貰った領地に関する資料をエディに見せている。って、見せていいものなのだろうか……。一応機密資料にならないのかな?

 エディが資料と格闘している間に、アレンを廊下に連れ出して聞いてみる。


「ボクはエディをレオンが帰ったあとのカペル家の執事にしようと思っているんだ」


 執事という仕事は見るからに大変だ。

 仕事の手助けだけでなく、常日頃から主との信頼関係を築いていて、主人が間違った道に進みそうなときはそれを止める役割も期待されている。貴族の家の屋台骨を支えていると言っても過言ではないから、かなり精神的に強くないとこなせないと思う。


 エディは確かに機転は利くし、私たちにだって必要な時には大きな声を上げてくれた。(今朝の馬房の掃除のときには何度か怒られた……)

 執事になるのに必要な資質はあるのかもしれないけど……


「アレンはエディが執事をやれるって思っているんだね」


「うん、間違いなく。エディは家族を失っても諦めなかった。それにまだ子供なのに数日かけてここまで一人で来たんだ。こんなに根性があるのに馬番で終わらせるのはもったいないよ」


「でも、アレン。本人が嫌がったら、無理強いはできないよ」


「その時は仕方がないね。諦めるよ。それじゃ行こうか、そろそろ読み終える頃じゃないかな」


 アレンはドアを開け、中に入って行った。







「アレン様、ごめんなさい。半分くらいしかわかりませんでした」


 半分でもすごい! 領主が見るための資料だから結構難しい言葉もあったと思う。


「読めたものは書けるの?」


「全部ではないですけど、小さいときにお父さんから少し教えてもらった事があります」


 エディのお父さんは読み書きができたみたい。


「それじゃ、読めたところを教えてくれるかな」


 エディは資料の中で読めるところを読んでいき、途中でアレンが指示したところは紙に書いていった。


「なるほど、ちょっとした手紙くらいは書けそうだね」


「はい、お父さんが亡くなった後、行商人に次持ってきてほしいものを書いて渡してました」


 エディが家族と住んでいたところは街から遠く離れていて行商人も頻繁には来ないので、次来た時に欲しいものを忘れずに持ってきてもらうために紙に書いていたんだって。

 あと、計算も足し算と引き算は行商人と商売するときに必要ということで覚えていたから、一から教える必要はなさそうだ。


「わかった。王都に戻った時にエディに必要な物も用意しよう。今日はとりあえず、この資料を読んでいこうか」


 そう言ってアレンは、エディと一緒に資料を読み始めた。






「これは人口分布と読んで、人がどこにどれだけ住んでいるかを表している。そして、ここの数字はこの数字をこの数字で掛けたもの、掛けるというのはその数字をこの数字の分、足していったものなんだ」


 エディが読めない文字を教えていくのかと思ったら、それと一緒に計算の仕方も教えていくみたい。アレンに混乱するんじゃないのって聞いたら、『算数と国語をわざわざ分けて教えなくてもいいと思うんだ』と言われて、目からウロコだった。地球では教科ごとに教えてもらうのが当たり前で、一緒にやるなんて考えたことが無かった。


「そうか、同じ数字を何度も足さなくても、この計算をしたら一度で済むんだ……」


 エディは混乱することもなく、計算と国語を一緒にこなしていっている。


 コンコン!


 入り口で待機しているルーカスさんが、ユッテが来たと教えてくれた。


「ティナ様、休憩されるようでしたら、お茶の準備をいたしますが?」


 そういえば勉強を開始して一時間以上たっているかも。お昼まで同じくらい時間があるから、休憩にはちょうどいい頃合いかもしれない。


「うん、お願い」


 私もユッテと一緒にお茶の準備を手伝うことにした。


「エディ君の様子はどうですか?」


「簡単な読み書きと計算はできるみたい」


「それはすごいです! 私は弟と一緒に教会で勉強しましたが、あいつはからっきしでした。あ、ティナ様、四人分ですよね」


 ユッテの弟さんは勉強が苦手みたい。


「うん、ルーカスさんも入れて四人」


 私はそういいながら、手では五本と指を広げた。それを見たユッテは五人分お茶を用意し始める。


「それでユッテはメイドになれたんだから、読み書きは大丈夫だったんだよね?」


「はい、頑張りました。あのまま実家にいたら、好きでもない相手と結婚させられそうでしたから必死に勉強して……。えっと、エディ君もお茶でいいのかな……」


 ユッテにはユッテの事情があるみたいだ。


「エディもお茶を出してみよう。それにしても、よく家を出ることを許してもらえたね」


 結婚先が決まっていたのなら、普通は出ていくのを止められるんじゃないかな。


「話があった時、両親も村の有力者だから仕方なくだったみたいです。私がそいつと結婚したくないから村を出たいって言ったら、話が決まってしまわないうちに早く出て行けって言ってくれました」


 それはちょうどいいタイミングでカペル家に来てもらえたのかもしれない。


「さあ、準備ができました。皆さんにお持ちしましょう」


 それからみんなで休憩をとることにした。もちろんユッテもいっしょにね。

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