第107話 お互い無理しないように気をつけようね
コン、コン!
お、久しぶりに聞いた。このノックの仕方はレオンさんだ。
ユッテがハイと言ってドアを開けに行く。
「………の……が…………」
「はい、……ました。ティナ様に…………します」
ユッテが私のところまで戻ってきた。何を話していたのかここでは聞こえなかったけど、きっとドアの外でレオンさんから要件を聞いたんだろう。
「ティナ様、夕食のご用意ができたようです」
えっ! もうそんな時間なんだ。アレンのところに行こうと思っていたのにいけなかったよ。エディと別れてからすぐにユッテがやってきて、次々に運ばれてくる荷物を部屋の中に入れたり、片付けたりしてたら時間がたっていた。
仕方がない、アレンにはそれとなく謝っておこう。
「ありがとうユッテ。えっと、場所がわからないんだけど、私を食堂まで連れて行ってくれるかな」
私はユッテと一緒に階段を降りる。
「さっきお父さんたちに直接部屋に連れてこられたでしょう。その時にどこに何があるのかを聞いてなかったから、一人でいるときにトイレを探しちゃったよ」
「え! 大丈夫でしたか? …………ふぅ、それはよかったです。ほんとに申し訳ありませんでした。私がちゃんと確認しとかないといけなかったのですが……」
「いいのいいの、すぐわかったし。それに可愛らしい男の子にも会えたしね」
「男の子……あっ! あの荷物を運んでくれてた少年ですよね。確かに一生懸命に働いてましたが、どなたかのお子さんでしょうか?」
「ここで雇ったメイドさんの子供じゃないのかな?」
「そうでしょうか? アンネ様からメルギルではメイドを雇うことができなかったから、手が空いた時で構わないから屋敷の仕事も手伝ってほしいと頼まれたのですが……」
お父さんは確かにメイドさんがいないって言っていたけど、ユッテまでお屋敷の仕事をしないといけないってことは、下働きの人も足りないのかな。アンネさんがいるんだから、とりあえず雇って技術が足りない人は教育していったらいいように思うんだけど……
「それじゃ、エディ君は男性の使用人の子供なのかもね」
男の人が子供を連れて働きに来るのは珍しいけど、どうも今のカペル家には人手が足りてないようだから手伝いに来てくれたのかもしれない。女の子ならまだしも、男の子はたいてい成人するまで家の手伝いをしないといけないから、さすがにあの年で働いているというのはないだろう。
「あの子、エディ君と言われるのですね。それでは、今度お菓子でも作って差し上げましょうか?」
「うん、それがいい! ユッテのお菓子は美味しいからきっと喜ぶよ」
ユッテが作るサツマイモを使ったお菓子は、程よい甘さでいくらでも入るから大変。お皿に出されたのが偶数ならいいんだけど、奇数だった時にはエリスと二人で最後の一個をどうするかって……ふふ、楽しかったな。そう言えば、エリスはこれから食べられなくなるからって、ユッテから作り方を聞いていたようなんだけど覚えたんだろうか。
「ねえ、ユッテ。エリスはあのお菓子を作れるようになったの?」
「それがティナ様、聞いてください。エリス様も頑張られたのですが、あと少しのところで時間切れでした。でも、こちらに来るときまでに練習しておくと言っておられましたよ」
お、もしかして、エリスはこっちで作ってくれるつもりなのかな。楽しみ。
「あ、ティナ様。こちらが食堂になります」
ユッテが
ドアを開けると中はかなり広く、2~30人は一緒に食事が取れそうだ。ただ、これだけの広さがあっても舞踏会をやるには狭い。
「えっと、座る場所は……」
「申し訳ありません、それは聞いておりませんでした。ちょっとお待ちください、すぐに確認してまいります」
ほんとこのお屋敷って、ギリギリの人数でやっているのかもしれない。初めての場所では大抵入り口に執事さんか使用人がいて、席を案内してくれるんだけどね。
「お、ティナの方が先だったね」
振り向くとアレンとルーカスさんたちが立っていた。
「アレン、ごめん。部屋に行こうと思ってたんだけど、行けなかった」
「そうなの? 実はボクもさっきまで寝てたから。逆にティナが来てたら悪いことしたなって思っていたんだ」
そう言えばアレン、メルギルに着く前も眠っていたな。長旅で疲れてたのかもしれない。
「寝てたんだ。疲れてた? 体は平気?」
「うん、大丈夫。寝たらスッキリした」
アレンの足は問題なく歩けるようになっているけど、体の方は長い間眠りについていた影響があるのかもしれない……って、それは私も同じか。
「お互い無理しないように気をつけようね」
「ん? 急にどうしたの。まあ、体は大事だからね。それには同意するよ。ティナも無理しないでね」
これから一緒にいるんだから、お互い無理しないように注意しあったらいいよね。
「お待たせしました。ティナ様、アレン様、それにルーカス様をはじめ近衛兵の皆さま。席にご案内いたします」
食堂の奥の部屋……恐らく厨房に向かっていたユッテが帰ってきた。みんなの席次を聞いてくれたんだろう。
私たちはユッテに従って、座席に着くことにした。
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