第106話 あ、ちょっと待って。君の名前を教えてくれるかな。
「ふぅー、今日からここで生活するのか……」
一人になった部屋の中で呟く。
メルギルの新しい部屋は、これまでのお屋敷と同じように天蓋付きのベッドと、手紙を書いたりや本を読むための机があった。ただ、部屋の広さはカチヤのお屋敷と同じくらいだから、王都のウェリス家や王宮のアレンの部屋のようにソファーを置くスペースは無いみたい。ユッテと話をするときは、別に椅子を持ってきてになるんじゃないかな。
さてと、夕食までの間、休むのはいいけど、ユッテはいないし荷物もまだ来ないし……暇だな。
アレンの部屋の行こうにも、どこなのかわからない。というか、食堂、いや、トイレの場所すら聞いてない。そういえばトイレ……こ、困ったぞ、気になったら急にいきたくなってきた。
「たぶん、この階にあるはずだから……」
とりあえず、出てみよう。ここで
ということで、さっき入って来たばかりのドアを開け、廊下に出る。
「あっちが西なのかな」
廊下の窓から森が見え、その先にある山に太陽が沈もうとしていた。
えっと、右側は部屋ばかりのようだな。窓の反対側に同じようなドアが並んでいた。
トイレは階段の方かな……よし、左側に行ってみよう。
「ふぅー、間に合ってよかった」
トイレは階段のすぐ横にあった。部屋からもそう遠くは無いし、ここなら夜も一人で大丈夫だと思う。
さてと、これからどうしよう。
洗面台に置いてある桶から水を汲み、手を洗いながら考える。
部屋でユッテを待ってた方がいいのかな。でも、いつ来るかわからないし……
うーんそれなら、アレンの様子を見に行ってみる? 一人で寂しくしていたらかわいそうだよね。そうと決まったら、アレンを探そう。どこだろう……よし、まずは一階だ。たぶん食堂があるはずだから、そこなら誰か教えてくれるはず。
そう思って、手を拭き終えた私は勢いよくトイレから出た。
「あ、あわわ!」
だ、誰かいた!
「ご、ごめんなさい。大丈夫ですか?」
「申し訳ありません、ティナお嬢様。僕は平気です」
そこには大きな荷物を抱えた少年が立っていた。
初めて見る顔だ。お父さんたちがここで雇ったメイドさんの子供さんかな。
「もしかしてその荷物は私の?」
少年が抱えていた荷物には見覚えがあった。馬車の後ろの荷台に積んで、王都から運んできたものだ。
「はい、兵隊さんからティナ様の物だとお聞きしました」
「ありがとう。あ、部屋はこっちだよ」
私は一階には行かず、少年を部屋まで連れていくことにした。
「重たくない? 私も持とうか?」
少年の体に比べて荷物が大きいので、運びづらそうにしているのだ。
「いえ、大丈夫です!」
そっか、せっかく頑張っているんだから、お願いしようかな。確か入っているのは服だったと思うから、落としても大したことないし。
それにしても、この子、いくつだろう。身長はフリーデよりも少し……低いかな。それなら、男の子だし小学生後半か中学生くらいだろうか。ふふ、なんだか一生懸命で可愛らしいな。
おっと、いけない。ドアを開けてあげないと。
部屋の前に着いた私はドアを開け、少年を招き入れる準備をするが、
「ん? どうしたの? 入らないの?」
少年は部屋の前に立ち止まったまま、動かないのだ。
「ごめんなさい。僕はこの中には入れません」
ああ、そうか。家族以外で女性の部屋に入れるのはメイドと家の主人から許可された執事だけだった。この子は使用人の子供だから入れないんだ。
「ありがとう。荷物はそこに置いといて」
少年は畏まりましたと言って、ゆっくりと荷物を降ろした。
「それでは、まだ荷物があるようですので、僕、取ってきます」
「あ、ちょっと待って。君の名前を教えてくれるかな。私はティナ、あ、名前は知っていたね」
そう言えば、さっき私の名前を呼んでいた。お父さんたちから聞いていたんだろう。
「僕はエドモンドです。エドモンド・グラン。ティナ様、よろしくお願いします」
エドモンドは
「エドモンドくんね。よろしく。これから、エディと呼んでもいいかな?」
「はい!」
これが、将来カペル家にいなくてはならない存在になる、エディとの初めての出会いだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます