第90話 ところで、アレン。クライブ大丈夫かな?
お、今ならアレンのところに行けそう。パーティーが始まってからずっと、アレンは参加者からの挨拶を受けていて近づけなかったんだよね。
ホール前方で、車いすに乗って一息ついているアレンの元に向かう。
「大変だったね。疲れてない?」
アレンの傍でずっと控えていた近衛兵のルーカスさんは、私がアレンの近くに寄ると気を利かせてちょっとだけ離れてくれた。
「ボクは平気。挨拶だけだったから。でも、みんなこの車いすのことを興味深そうに見ていたよ。別の機会を作って改めてお披露目した方がいいかもね」
私もさっきまでお母さんと一緒に、出席してくれた人たちに挨拶をしていたんだけど、合間合間にアレンやクライブがいるあたりの様子を見ていたんだ。その時にアレンと話している人たちの様子が、何だかぎこちないように見えた。
だから、車いすについても興味はあるけど尋ねることはできなかったんじゃないかな。
「そうだね。今日のことを鍛冶屋さんに話してみるよ」
「うん、お願い……いや、ちょっと待って、そのお披露目はカペル家の主催でやろう」
どういうこと?
「あとから詳しく話すけど、これにしても乳母車にしても人気が出そうなんだよね。
よくわからないけど、アレンがそういうのならそうした方がいいんだろう。
「わかった。どうしたらいいのか、あとから教えてね」
「うん、よろしく。……ところで、ティナ。その服は? どこに隠していたの? ボク見たことないよ」
私も今日初めて見たんだから、アレンが見ていたらおかしいよ。
「いいでしょう。お母さんが舞踏会用にって作ってくれたんだ」
私はアレンの前でくるりと回ってみせた。
「へえ、新しいやつなんだ。うん、可愛いよ。色合いもいいね。……でも、最初に踊る相手になれなかったのが残念かな」
「ごめんね。私の舞踏会デビューが遅くなったらよかったんだけど」
「大丈夫だよ。もう少しで自分の足で歩けるようになるから、楽しみにしておく。その時にまた着てね」
「わかった。大事に取っておくよ。それで、私の最初の踊りの相手は誰だろう……」
「あー……クライブは、無理そうだね」
クライブは、私たちから少し離れたところファビアンさんと一緒にいて、さっきから貴族の挨拶を受け続けている。しかも、後ろには並んで待っている人たちがたくさん残っているから、まだしばらくはあのままだろう。
「うん……さっきからずっとだけど、疲れてないかな?」
「笑っている余裕があるみたいだから、もう少しはいいんじゃないの」
確かに、挨拶を受けるだけじゃなくて話しかけてもいるようだ。なら、大丈夫か。それに、もう少ししたら舞踏会も始まるし、音楽が始まったら少しは落ち着くだろう。
「ごめんね、ティナ。カペル家のパーティーなのに、ボクたちが主役みたいになっちゃってて」
アレンがそういうので、クライブの少し先にいるお父さんを見ると、お酒を片手にたくさんの貴族の人たちと話し込んでいるようだ。
「ううん、お父さんのところも忙しそうだから平気だよ」
今日はカペル家の
でも、今回はクライブとアレンには敢えて来てもらった。
というのも、巷では私とクライブが結婚の誓いを立てていると、まことしやかに
どうして放置しているのかって、それはエリスとクライブの結婚をうまく進めるため。もし、婚約発表前にクライブのお妃候補がエリスだと知られちゃうと、貴族の令嬢でもないのにけしからんといって邪魔が入るかもしれないからね。
だからクライブは、私との仲は噂通りですよと貴族の方々に知らせるために出席し、アレンは将来私と結婚するときのための布石として今日は来ている。だって、あれだけクライブと仲良くしていたのに実際はアレンと結婚したとなってはカペル家の評判が落ちちゃうかもしれないから。実はクライブとはそこまでではなくて、アレンと仲良しだったんだってあとから気付いてもらうためには、今日アレンにも出席してもらう必要があったんだ。相手が王家になると、色々と気を使うことが多くて大変だよ。
さてと、もう少しで舞踏会が始まる。
それまでに料理でも取ってこようかな。アレンも久しぶりにウェリス家の料理を食べられるから、きっと喜んでくれるだろう。
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