第89話 アレン様が乗られている椅子は何なの?
「ティナ様、クライブ殿下とアレン様がお見えになるようです」
近衛兵のお兄さんが私たちのところに知らせに来てくれた。
「お父さんたちには?」
「先にお伝えしてまいりました」
「ありがとうごさいます。エリス、ベルタさん、お出迎えに参ります。ついて来てください」
お昼過ぎにお父さんたちとコンラートさんがやってきて、パーティーの準備は整った。それからすぐに開場し、すでに、多くの招待客がお見えになっている。あとは王族のクライブとアレンを待つだけなのだ。
ホールの中では、多くの貴族の方々が料理や飲み物を片手に歓談しているので、邪魔にならないように端の方を静かに進む。正面玄関を出ると、お父さんとお母さんがすでに階段下にいるのが見えた。お父さんの横に並び声をかける。
「コンラートさんたちに感謝しないといけないね」
パーティーの準備から給仕まで、ウェリス家の人たちがいないとこのパーティは出来なかったと思う。
「ああ、私たちだけでは何もできなかった。持ちべきものは友だよ」
うんうん、お父さんも感慨深げだ。
「あなたたち、気を引き締めて下さい。これからが本番ですよ。ほら、馬車が来ましたよ」
そうそう、クライブたちをちゃんとお出迎えすることができないと成功とはいえないからね。
ここにいるお父さん、お母さん、私、それにエリスの四人が王都にいるカペル家の関係者すべてだ。それに、ベルタさんを入れた五人で王家の馬車を迎え入れる。
止まった馬車からは、まずはファビアンさんが出てきて、次にクライブ、そしてアレンがルーカスさんに体を支えられながら降りてきた。馬車の前には別の馬車で運んできた車いすが用意してあり、アレンはそこに座った。
「クライブ殿下、アレン様、カペル家のためにお越しいただき感謝の念に堪えません。本日は心ゆくまでお楽しみください」
お父さんの言葉に合わせ、私たちは揃って二人に対して頭を下げる。
「カペル卿、どうか頭を上げてください。私と兄上は、今日が来るのを楽しみにしていたんですよ」
「ありがとうございます。ご希望に添えますよう精を尽くさせていただきます。それではこちらに」
お父さんを先頭にクライブ、その後をファビアンさんとルーカスさんに車いすを抱えられたアレンが続く。私はお母さんとエリス、そしてベルタさんと一緒にお父さんたちの後ろについて階段を登っていく。
上まで登ったところで、ファビアンさんたちはアレンの車いすを降ろし、押しながらホールの中へと入る。
「ティナ。さっきから気になっていたんだけど、アレン様が乗られている椅子は何なの?」
そういえば、コンラートさんにはアレンが車いすに乗って来ることを伝えていたけど、お父さんとお母さんには話してなかった。
「足が悪い人でも移動しやすくするための物だよ。アレン様が考えたんだ」
「すごいわね。あれなら領地でも欲しい人はたくさんいるはずよ」
こちらでは地球のように医療が充実していないし、義足なんかの技術も発達していない。だから、病気で足が動かなくなったり、事故で足を失ったりしている人たちもいるはずなんだけど、そういう人たちが表に出ることはあまりない。みんな詳しくは教えてくれないけど、たぶんそういうことだと思う……
「王都の鍛冶屋さんに作ってもらったんだ。アレン様が他の人のためにも作ってあげるように頼んでいるから、これからはみんなも使えるようになるよ」
「ぜひそうしてもらいたいわ」
これまで寝たきりだった人が、自分で動くことができるようになったら仕事だってできるかもしれない。……きっと、不幸な人だって減るはずだ。
「お集まりの皆様。クライブ殿下とアレン様がお見えになりました」
お父さんがホールに入ると同時に、レオンさんがクライブとアレンが到着したことを告げる。会場は一瞬で静まり、みんなの視線が私たちに集まったのがわかった。
私たちがホールの真ん中を歩く中、特に注目を集めているのは、今回が目覚めてから初お目見えになるアレンだ。さらに、乗っている車いすについては、なんだあれはという声も聞こえてくる。
私たちがホールの前方まで進んだあと、お父さんが挨拶をして、記念のパーティが始まった。
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