第85話 やっぱり兄弟だ。息ぴったりだね。
「お疲れ様、クライブ。それでどうだった?」
クライブは、先日から時間をみつけては爺やさんのところで皇太孫としての心構えの勉強をしている。今日は、エルマー殿下も一緒に教えてくれるって張り切っていたから、ついでにあの後どうなったか聞いてもらっていたんだ。一応当事者の一人として気になるからね。
「うん、やっぱり教皇国と和平を結ぶみたい」
やっぱりそうするんだね。教皇国とは元々中立だったのにあっちが勝手に攻めてきて、負けたからと言って和平結ぼうとか厚かましいにも程があるんだけど、王国は海の向こうまで領土を広げようと思っていないみたいだから、受けることにしたんだと思う。賠償金も少しだけど貰えるみたいだし。いずれにしても、平和になることはいいことだよ。
「よかった、もう戦争はこりごり。でも、船にはまた乗ってもいいかな」
「そう? 今度、またハンス船長にお願いして船で勉強させてもらおうと思っているんだけど、ティナも一緒に来る?」
「ハンス船長の船か……エリスも誘って行ってみようかな」
「それなら、ボクも一緒に行く!」
「うそうそ、学校が終わったら新しい領地に行かないといけないはずだから、私とアレンは無理だよ」
「そうか、残念。エリスは王都に残るんでしょう?」
「うん、お妃になる勉強をしないといけないから、そのままウェリス家にいることになると思う」
正式なお願いはエリスが帰って来てからだけど、エリスは私が王都を離れるときにギーセン伯爵家の養女、つまりエリザベートちゃんのお姉さんになる予定だ。普通なら、ギーセンさんのところでお妃なる勉強をやるんだろうけど、ギーセンさんは南部が王国に編入されると同時に貴族になったから、あまりそういうことには詳しくないみたい。だから古い家柄で、いろんなところに顔も利くコンラートさんのところにいた方が都合がいいんだって。
でも、この前ギーセンさんの所にコンラートさんと一緒に養子の件の下話に行ったとき、エリスも連れて行ったんだけど、エリザベートちゃんはエリスの手を取って新しいお姉ちゃんができるってかなり喜んでいた。だから、二つの家を行ったり来たりするんじゃないかな。エリスもまんざらじゃなかったようだしね。ただ、エリスが私の技をエリザベートちゃんに教えてあげますって言ってたのが気になる……メイドの技は役に立つと思うけど、まさか情報屋の技も教えないよね……
「そうか、王都にいるのならエリスとはいつでも会える。よし! それじゃティナ、始めようか」
私とアレンが王都から離れたあとでは、クライブがこれまで通りにエリスに会えるとは思えないけど、少なくとも距離の制約はないか。あとはクライブが何とかやるだろう。
「ありがとう、クライブ。無理言ってごめんね。それではアレン先生、今日もお願いします」
わかったと答えたアレンは、ベッドの中心まで行き自分の体を楽な姿勢にした。すぐに寝息が聞こえ、デュークの気配が私の横に来たのがわかる。
(それじゃ、入るよ)
(うん)
デュークの気配が私の方に近づいて、そして私と一つになる。
(昨日と同じようにまずはボクがやってみるから)
私の中のデュークに心の中で
「クライブ、いいよ」
私の声でデュークが喋り、クライブは私の手をとり、そして二人は踊り出す…………
「いちにさん、いちにさん、いちにさん、――――」
私の声でデュークが拍子を取る。それに合わせてクライブと一緒に体を動かし、踊りを形作っていく。
(どう? わかった)
(わかったような、わからないような……)
半月後に舞踏会デビューが決まってしまった私は、それまでに何としてでも踊りをマスターしないといけなくなった。そうしないと、王都中の貴族の方々に笑われてしまうのだ。
背に腹を変えられなくなった私は、この前興味本位でクライブの中に入って完璧に踊ってみせたデュークに教えを乞うことにした。だって、クライブが急に踊りがうまくなったのは、どうやらデュークと一つになって踊ってからのようなのだ。私もそれにあやかろうと考えたわけ。
「コツをつかんだらいいんだけど……それまでは練習するしかないね。もう一度やってみよう。クライブ大丈夫?」
「はい、兄上。それじゃ、ティナいくよ」
再度、最初から踊ってみる。
「いちにさん、いちにさん、いちにさん、――――」
アレンの部屋には学校と違って蓄音機が無いから、音楽を鳴らすことはできない。そのため、デュークが私の口を使ってテンポを取ってくれているんだけど、これがかなり正確な気がする。私はこれまで踊るときにテンポをあまり考えてなかったかも。
ん? もしかして、曲に合わせたら大丈夫だってダニエルが言ったのはこのことだったの……試してみよう。
(デューク、私がやってみたい)
(わかった、代わるね。はい)
途中で体の支配をデュークから返してもらい、そのまま踊り続ける。
「あれ?」
「ごめん、代わってもらった」
「それじゃ、僕が拍子をとるね。いちにさん、いちにさん、いちにさん、――――」
クライブの拍子に合わせて踊ってみる。
うん、やっぱりそうだ。拍子に合わせて動いたら、同じタイミングで動くことになるから足を踏むことなんて無いんだ。何でこんな簡単なことがわからなかったんだろう。
そのあとはデュークはアレンに戻ってもらって、私とクライブで練習を続けたんだけど、クライブの足を踏むことはなかった。
「何とか間に合いそうだよ。アレン、クライブありがとう」
「「どういたしまして!」」
やっぱり兄弟だ。息ぴったりだね。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます