第78話 ここだとあれだから、部屋に戻ってから話すね

 学校が終わり王宮に到着した私たちは、アレンの部屋で王様から呼ばれるのを待っている。


 コンコン!


 来た!


「失礼いたします。クライブ様、ティナ様、陛下がお呼びです。外でお待ちしておりますので、ご準備ができましたらおいでください」


 爺やさんはそう言って、部屋の外に出ていった。


「それじゃ、行ってくるねアレン。エリス、心配だろうけど、ここで待っていて」


 メイドのエリスは連れていけないから、私が代わりにエリスのいいところを伝えないといけないのだ。


「いってらっしゃいませ、ティナ様」


「ティナ、行ってらっしゃい。……あっ、ちょっと待って」


 ベッドに座っていたアレンは、急に横になって寝息を立てだした。まさか……


(ティナ、行こうか!)


 デュークもついてくる気だ。


 クライブに事情を話し、残ったアレンの体のことをエリスに頼んで部屋を出る。







(ティナと一緒♪)


 執事の爺やさんに王様が待つ王家の応接室に案内してもらっている間、デュークは鼻歌交じりで私の隣についてきている。


(余計なことしないでよ)


(余計な事ってどんなの?)


(……例えば王様の中に入るとか?)


(おじい様に入って『うん』と言わせるんだね……それも面白いかも!)


(それだけはやめてね)


 そんなことをしたら大騒ぎだよ。卑怯な手だし、あとから説明しろと言われてもどう言ったらいいかわからない。

 ふふ、それにしてもデュークとこうやって話すのも久しぶりだな。


「ティナ、嬉しそう」


 クライブがそっと耳打ちしてきた。


「そ、そうかな……」


 うーん、そうなのかも。気を抜いていたら顔がにやけてきそうだもん。


 あれ、そういえば、


(ねえ、デューク。アレンさんから出ている間、アレンさんの体は大丈夫なの?)


(うん、ちょっとの間ならね)


(他の人に乗っ取られるってことは無いの?)


(うーん、それは分からないけど、ボク以外にこんなことできる人見たことないし、いたらもっと早くに乗っ取られているんじゃないのかな)


 デュークはこんなことができるのは自分だけだと示したいのか、私とクライブの周りをくるくるとまわっているみたい。確かにアレンさんが眠りっぱなしというのは王国の人なら知っていたみたいだから、デュークのような存在が他にいたらアレンさんになり切って悪事を働いていたかもしれないんだ。そんなことになってなくてよかったよ。





 目的の応接室の前で爺やさんが立ち止まる。

 コンコン!


「入れ!」


「クライブ様、ティナ・カペル様をお連れしました」


 爺やさんはそう言って応接室のドアを開け、私たちに中に入るようにうながした。


 部屋の中には王様とエルマー殿下の他に、ビアンカさんとクラーラさんも待ってくれていた。二人は私たちの味方だからね、心強い。


「二人とも座りなさい。さて、ティナ。今日はクライブとの婚姻を許してほしいとのお願いに来たのかな」


 いつもは厳しめの顔をしている王様の顔が、なんだかほころんでいるようにも見える。

 私は王様の向かいのソファーに座って答える。


「陛下、今日お伺いしたのはクライブ殿下との……」


 その時『失礼します。至急お伝えしたいことが』と言って、私たちを案内してくれた爺やさんが入ってきた。エルマー殿下は傍に来るように話し、爺やさんがエルマー殿下に耳打ちをする。最初はうんうんと頷いていたエルマー殿下もすぐに目を見開き『わかった』と答え、そして王様に同じように耳打ちをする。王様もいつものように厳しめの顔になって、何も言わずに爺やさんと一緒に部屋を出ていった。

 そして、残された私たちに対し、エルマー殿下は立ち上がってこう言った。


「すまない、急用ができた。ティナ、クライブ、話はクラーラから聞いているよ。クライブとエリスの事だろう。ティナが来てもらえないのは残念だけど、アレンと一緒になってくれるのならそれもいいと父上は言ってくれた。ただ、エリスはこのままではクライブの婚約者として発表できないから……そうだな、あとはコンラートに話しておくから、それじゃ」


 エルマー殿下も部屋を出ていった。最後の方はドアを開けながらだったから、余程急ぐことがあったんだろう。





 その後、王妃様とクラーラ様に王様たちがどこ行ったのか聞いたけど、わからないということだったので、今回の件のお礼を言って、クライブと一緒にアレンの部屋に戻ることにした。


「結局、王様は私たちのことをわかってて話を聞いてくれたってことかな」


「父上は母上から聞いたって言っていたね」


「うん、そして、エリスの準備が整ったらクエイブの婚約者として発表するって言ってくれたよ」


「そこまで言っていたっけ」


 そういうクライブの顔は嬉しそうだ。


「それにしても、王様たちはどうしたんだろう。お客様が来るの忘れていたのかな」


「忘れることは無いんじゃないかな。爺やがいるからね」


(ボクね、爺やがお父様に話しているの聞いてたよ)


 そういえば、あの時のデュークは私から少し離れていた。エルマー殿下と爺やさんのところに行っていたんだ。


(なんて言っていたの?)


(ここだとあれだから、部屋に戻ってから話すね)


 思わせぶりな態度、なんだか気になるな……

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る