第77話 涼しくなってきましたね、お姉さま
決戦の朝。
王様たちとの約束は午後の予定なので、いつものようにフリーデと一緒に学校へと向かう。
「涼しくなってきましたね、お姉さま」
夏が過ぎ、朝晩は肌寒くなってきた。王都では冬に雪が降るということだから、これからどんどん寒くなっていくんだろう。
「風邪ひかないように気をつけようね」
馬車は、街路樹が色づいていると思われる王都の道を進んでいる。たぶん街なかは秋らしくなっているはずなんだけど、この馬車に乗る私とフリーデはそれを見ることはできない。レオンさんがいる限り、窓を開けることは不可能なのだ。
くそぉー、絶対、絶ー対! 新しい領地に行ったら、馬車の窓は全開で走ってやるんだから!
教室の中には生徒たちが次々に登校してきていて、親しい友達を見つけては挨拶を交わしていた。
「おはよう、ティナ」
カバンを開けて一時間目の授業の用意をしている私のところには、いつものようにクライブがやってくる。
「おはよう、クライブ。早速だけど、王様たちの予定は変わりないの?」
席についたクライブも、カバンを開けゴソゴソと中を覗いている。
「うん、爺やに聞いたけど、ちゃんと時間を取ってくれているって言っていたよ。お、あったあった」
それなら今日予定通り、王様たちに直訴することができそうだ。上手くいくかどうかわからないけど、ここまで準備してきたんだから、あとは、当たって砕けろだよ。あっ! 砕けちゃダメなんだった。てへへ。
その時、クライブが机の上に一枚のプリントを出すのが見えた。
「それって……」
「エックハルト先生の宿題だけど……もしかしてやってないの?」
しまった! お父さんたちに会った嬉しさですっかり忘れていた……どうしよう。
「まだ、先生が来るまで時間はあるし、ティナなら間に合うよ」
エックハルト先生って、ズルしたらすぐに気が付くんだよね。そして次は倍の量の宿題を出してくるの。仕方がないか、できるところまで頑張ろう。
「そうだ、カペル卿も着いたんでしょう。何か言ってなかった?」
今プリント中なんだけど……クライブもエリスとのこと、気になるよね。
「お父さんもお母さんも最初は驚いていたけど、わかってくれたよ」
手を止めずに、クライブの質問に答える。
「そう。それじゃ、エリスのことも?」
「もちろん!」
「よかったー」
エリスはカペル家の使用人だから、当主であるお父さんの許しがないとお嫁に行くことはできないんだよね。そして、次にエリスの本当のお父さんのカミルさんにお願いに行って、OKなら晴れて二人は結婚できるんだけど、クライブが王家の人間でさらに皇位継承者だから簡単にはいかない。
っと、あと少し……
「よし、できたー。さあ、午後からが本番だね!」
「うん、母上もビアンカさんも大丈夫だって言ってくれているけど心配だよ」
「まあ、やるだけのことはやったんだから。あとは自分の気持ちをちゃんと伝えないとね。そして、私は今日からダンスも頑張る!」
「ああそうか、カペル卿が新たに爵位を貰うからパーティを開くんだ。僕も呼んでくれるんでしょう? 舞踏会かー、初めて参加するよ。ティナ、一緒に踊ろうね」
クライブのやつ、ちょっと踊れるようになったからって、楽しそうにしちゃって。私は不安でいっぱいなのに……
「痛てっ!」
私の目の前には、ダンス用の靴に踏まれた足をさすっているダニエルがいる。
「ご、ごめん」
「だ・か・ら、ティナ。この時の足の運びはこうだって」
午後のダンスの授業、いつものようにダニエルに指導してもらっているんだけど、今日も足を踏んでしまった。
「ほんとにごめん。でも、前よりも踏まなくなってきていると思わない?」
「相手の動きがわかっていたら、普通は踏まないものなの! それに、曲に合わせたら大丈夫なの!」
合わせているつもりなんだけどなあ……
最初の曲が終わり、一人で練習していると失敗せずに踊り終え、ニコニコのクライブがやってきた。
「ティナ、次は僕と踊ろう!」
くそぉー。クライブのさわやかイケメン顔が
とはいえ、私と一番レベルが近いから、踊りやすいのは確かなんだよな。
「クライブ殿下、よろしくお願いします」
ダンス用のひらひらな衣装の裾を持って、
クライブは学校や他の人がいないときに私から殿下と呼ばれるのを嫌がるけど、ダンスの時は舞踏会の練習も兼ねているから何も言わない。ただ、顔は微妙な感じになっているけどね。
新たに始まった曲に合わせて、クライブと踊る。
最初は右に二歩、次は左に三歩。息が合ったペアは曲に合わせてアドリブで踊ることができるみたいなんだけど、私たちは決められた通りにやらないとまともに踊ることすらできない。
「ティナ、そこはもう少し移動しないといけないよ。クライブについていって」
「こうかな……」
「そうそう、二人ともいい感じだよ」
踊っている様子をダニエルに確認してもらう。
なんだか、今度はいい感じかも。もしかして、成功しちゃうかな。
「あっ!」
へ?
「痛て!」
「ご、ごめん」
「ティナ、そこは後ろに下がらないと」
うー、やってしまった。まだまだ、練習が必要だよ。舞踏会、間に合うかな……
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