第75話 正直、驚いて言葉も出ないんだが……

 コンラートさんと一緒にアレンの部屋に行ってから一か月後、カチヤからお父さんとお母さんがやってきた。


「「ティナ!」」


「お父さん! お母さん!」


 ハーゲンお父さんとアメリーお母さん。こちらでの私の大事な家族。もう二か月以上会ってなかったけど、二人とも元気そうでよかった。


「ほら、ティナ。会えて嬉しいのは分かるが、二人は疲れているのだから早く中に入れてあげなさい」


 そうだった。お父さんとお母さんはカチヤから着いたばかりだから、休ませてあげないといけないんだ。馬車の音を聞いて思わず外に飛び出して、そのまま抱き着いていたよ。


「コンラート様、ご無沙汰しております。ティナのこと、本当にありがとうございました」


 お父さんは、コンラートさんに対してうやうやしく礼をしている。


「ハーゲン、何度言ったらわかるんだ。お前と俺との仲なんだから、『様』はいらないと言っているだろう」


「ウェリス卿、ここは王都です。そういうわけには参りません」


「相変わらず硬いやつだな……。わかった、でも家の中ではそういうの無しで頼むぞ。それよりも早く入ってくれ。カミラとフリーデが今にも飛び出してきそうなんだ」


 確かに玄関先で、セバスチャンさんとレオンさんに止められているカミラさんとフリーデが見えた。


「お父さん、お母さん。早く入ろう!」


 二人の手を引いて、コンラートさんの部屋へと向かう。






「改めて、コンラート。しばらくの間、アメリーと二人よろしく頼むよ」


 コンラートさんの部屋で、セバスチャンさんに入れてもらったお茶を飲みながら、ウェリス家のみんなでお父さんとお母さんを囲んでいる。

 お父さんとお母さんは、王都にいる間はウェリス家に泊ることになったんだ。二人と一緒なんて、あの戦争の後以来だから楽しみだよ。


「なあに、構わんさ。ここにはティナもいるし、カミラもアメリーさんと会うのを楽しみにしていたからね。それに、お前たちもあれから忙しかったんだろう。ここにいる間は家にいると思ってくつろいでくれ」


 話には聞いていたけど、教皇国がカチヤから逃げだしたあと、お父さんたちはかなりたいへんだったみたい。壊された町の復旧や、わずかだけど亡くなった人がいて、残された家族へのフォローなど領主でしかやれない仕事がたくさんあったんだって。


「そう言ってくれると助かる。それでその……ティナだけど迷惑をかけてないかい」


「迷惑なんてとんでもない……いやそうでもないか。ふふふ、ハーゲン。ティナが来てから王都では色々あったんだが、聞く気はあるかい」


 ち、ちょっと、コンラートさん。そういう言い方だと私が何かやらかしたみたいなんですけど……


「エルマー殿下から教皇国を追い出す事に協力したとお聞きしているが、まだ他にもあるのか?」


「ああ、その計画を聞いた時には私も驚いたけど、それはまだまだ序盤にすぎんよ。ティナは――」


 コンラートさんは、アレンが私と会うようになってから間もなく目覚めたこと、クライブがエリスと一緒になりたいこと、そして私は王家からクライブのお嫁さんに求められているけど、アレンと結婚したいと思っていてアレンもそれを望んでいることなどを話した。


「それは本当なのかい? 正直、驚いて言葉も出ないんだが……」


 お父さんは固まってしまっていて、お母さんはカミラさんの方を見てほんとなの? って顔している。


「ティナのアレン様と、エリスのクライブ殿下と一緒になりたいと言う気持ちは間違いないの?」


 カミラさんの頷きを見てお母さんが尋ねてきた。

 私とエリスは顔を見合わせ、揃って頷く。


「わかったわ。二人のことを詳しく聞かせてくれるかしら?」


 私はお父さんとお母さんに、こっちに来てからアレンとずっと一緒にいて、互いに支えあっていくのが当たり前で、今では離れるのが考えられないことを話した。


「そう、よかった。ティナにいい人が見つかったのね。私は応援するわよ!」


「いいの? コンラートさんから、王家の人を受け入れることを嫌がる家もあるって聞いていたんだけど」


「まあ、そういうことを心配するところもあるが、うちみたいな弱小貴族だと王家に主導権を握られるとか考えても仕方がないことだ。それに、ティナがその人を選んだのなら反対はしないさ。それよりも、アレン様とずっと一緒だったってどういうことなんだい?」


 私は二人に、毎日アレンのリハビリに付き合っている事を伝えることにした。

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