第72話 さてはお前たち、そのために俺を呼んだな
私とクライブがアレンの部屋について間もなく、ハンス船長が来るという知らせがあった。
侍従さんに連れられて来た船長さんはいつもの白い軍服を着ていて、少しだけ潮風の気配を感じたから、ここに来る前は船に乗っていたのかもしれない。
「お、ティナにエリスもいるのか。いつもアレンの事、見てくれているんだってな。ありがとな。それにしてもアレン、元気になってよかった。早く会いたかったんだが、いつまでたって呼ばれねえから押しかけようかと思っていたぜ」
船長はそう言って、ガハハと笑いながらアレンの元までやってきた。
デュークがアレンさんの中に入って半月ほど。船長とクライブとの関係はかなり親しいように感じたから、お兄さんのアレンさんのことも心配していたんだと思う。
アレンがまだ長い時間ソファーに座ることができないので、いつでも横になれるようにベッドにクッションを引いて座っている。だから私たちは、その周りに椅子を並べて話すことにした。
「ごめんなさい。ボクがみんなのことを忘れてしまっていて……」
「気にするな、言ってみただけだ。俺はハンス。お前のばあちゃんの兄貴だ。よろしくな! それにしても……おめえはほんとにアレンだよな。なんだか最近会ったような気がするんだが……気のせいか?」
船長はアレンの顔を覗きこみ、首をひねっている。船長にしても、王様にしても勘が鋭いな。
「おじさん、兄上は目覚めてからほとんど部屋を出ていませんよ」
「そっか、そうだよな。おっ! アレン、寝てた時よりも肉がついて来たんじゃねえか」
船長は手を伸ばし、少しふっくらしてきたアレンの頬を触っている。アレンが永い眠りについていた間も、お見舞いに来ていたのかもしれない。
「ハンスおじさん。ご飯はたくさん食べるようにしているんだ。すぐにでも動けるようになりたいからね」
「いい心がけじゃねえか。この調子じゃすぐにでも元気になるな。よし! 動けるようになったら俺のところに来るかい。まだ行き先決まってねえんだろう」
「せっかく誘ってもらったのにごめんなさい。ボクはティナのところに行こうと思っています」
「えっ! ティナだって! でも、ティナはクライブと……」
「僕はここにいるエリスと……」
クライブとエリスは、手を取って見つめ合った。
「エリスとだと! そりゃ、確かにあの時、いいとこに嫁いでもいいとは思ったけど、寄りによってクライブとは……。ん? でも、さっきカール(国王)の所にちょっと寄ってきたんだが、ティナと一緒にさせるつもりだって言ってたぞ」
やっぱり王様の説得が必要みたい。
「そこで、アレンが元気になったら俺のところで面倒見てくれとも頼まれたんだけどな」
王様もちゃんとアレンの将来のことを考えてくれているんだ。けど、
「おじさん、ごめんなさい。ボクは海軍に入ることはできません。それに、クライブだってエリスと一緒になりたいと思っている。どうかボクたちの協力をしてもらえないでしょうか?」
「ははーん、お前たち。さては、このために俺を呼んだな」
船長は私たちを見回す。
「……そうかここには軍師殿もいるじゃねえか。まあ、仕方がねえ。可愛いお前たちのために一肌脱いでやろう!」
早速ハンス船長に詳しい事情を話し、妹さんが王様に嫁いだ時の状況を聞くことにした。
「――というわけなのですが、ハンス船長、エリスがクライブ殿下のお嫁さんになるためにはどうしたらいいのでしょうか?」
「そうだな、俺の妹の時はエリスと同じ庶民だったんで、いくらカールが望んでもそのままでは王族に嫁ぐことはできなかった。だから、一度貴族の養子にいれる事にしたんだ」
「貴族の養子に……貴族だったらどこでも構わないのですか?」
どこでもいいのなら、エリスをカペル家に養子に入れてクライブのところに嫁がせることができる。
「いや、確か伯爵以上で、王国への貢献度とか、他の貴族の兼ね合いとか色々あって、決めたんじゃなかったかな」
「他の貴族との兼ね合い?」
伯爵以上なら、今度カペル家は伯爵の位を
「俺はそこのところはさっぱりわからねえから。カールに任せちまった。すまねえな」
うーん、陸上のことだから、船長さんには荷が重かったのかな。
「それで、妹さんはどこの貴族の養子になられたのですか?」
「ああ、それは王都近くのガーランド侯爵の所だ」
ダニエルのところじゃん。
ということは、ガーランド侯爵家に匹敵するとなると……
「コンラートさんにお願いしたら大丈夫かな」
ウェリス家は、侯爵家でも格式が高いってセバスチャンさんが言っていた。伯爵家になるカペル家から嫁に出すよりもエリスのためになるだろう。
「ティナ、それはきっと無理だと思う。今のおばあさまがウェリス家の奥方の姉になるから」
兼ね合いってこっちのことなのね。でもそうなると、カペル家からエリスを嫁に出すこともできないな。だって、お母さんも王妃様の妹だからね。
「まあ、この辺の事情を話したらコンラートが探してくれると思うぜ。あいつはこういうの得意だからな」
うん、確かにコンラートさんなら貴族同士の調整ごとには慣れている感じがした。今夜にでも聞いてみよう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます